不器用すぎたよ、お父さん

026
が嫌いだった。

ガサツで自分勝手。

とんでもないことをしでかしても、
自分だけは許されると、どこかでタカをくくっている。

お母さんは生前、言っていた。

「お父さんはあれだね、末っ子の唯一の男の子だったから、
 お義母さんに甘やかされたんだよ。
 いいかい、人間っていうのはね、窮地に陥ったときに、
 誰かがなんとかしてくれると思うタイプか、
 自分でなんとかしようと思うタイプか、
 二つに分かれるんだよ」

私が小学生のとき、父はいきなり学校にやってきて
勝手にひとり、授業参観。

「せんせ、すんまへんなあ。
 今日しか見れまへんさかい、頼みまっさ」

コメディアンのようにふざけた調子。

当然、クラスは騒然となり、いつも私を冷やかす男子は、
「おい、あれ、おまえの父ちゃん、ちゃうんか?」
と私をつつく。

(ああ、恥ずかしい、なんでウチのお父さんはあんなんやろ、
 もっとまともな人やったらよかったのに…)

そう思って俯いた。

あれは高校生のときのこと。

バレーボールの全国大会決勝戦で、私は大きなミスをした。

競っていた試合。

私の打った一番大事なサーブは、ネットを越えなかった。

地元の駅に降り立つのが怖かった。

みんなの視線を浴びることを思うと胃が痛かった。

改札を抜けたとき、一番前に、父が立っていた。

父はまったく私の意表をつく姿だった>>>

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はなんとメガネをかけていた。

ただのメガネではない。
カラフルな糖衣チョコがメガネ型の
ブリスターに入った駄菓子の代物。

輪ゴムで耳にかけている。

「いやあ、○○○(私の名前)、おつかれさん。
 恥ずかしいミス、しでかしたもんやなあ」

大きな声で言ったので、そこにいた人、みんなが笑った。

私は頬を真っ赤にして、その場を立ち去った。

(ひどい、なんで傷口に塩を塗りつけるような真似するんやろう。
 親子なのに……信じられへん。
 なんてひどいお父さんなんやろう!)

川べりまで走って泣いた。
大きな声で泣いた。
悔しかった。

何もかもが悔しくて、泣けた。

その日、家に帰ると、父はベランダで
メガネの駄菓子をプチプチ開けて、チョコを食べていた。

その丸い背中をよく覚えている。

今なら分かる。

お父さんが自分でも恥ずかしい恰好をすることで、娘を守ろうとしてくれたこと、
率先してミスのことに触れることで、周りの揶揄を鎮めてくれたこと。

ただ・・・・・・不器用すぎたよ、お父さん。

今、父が煙になっていくのを眺めている。

真っ青な気持ちのいい天気だ。

ぐんぐん登っていく黒煙の行方を追いながら、
それがやがて「8」の字に見えた。

改札でおどけながら私を待っていた、
あの駄菓子のメガネを思い出した。

出典元:PHP特集 前を向いて生きる!
「ハイエイトチョコ」

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