最近なんで笑わないんですか?と聞かれ…

b555

b555
0歳少し前の私は、初めて銀行の支店長に任命され、
晴れがましい気持だった。

同期の仲間と比べても早い方であったし、私は有頂天だったのだろう。

支店に着任するや、私は猛烈な勢いで仕事をし、かなり無理もした。

業績がグングン上がっていき、数字の伸びるのが楽しみだった。

しかし好事魔多しである。

というより自分で魔を引っ張りこんだようなものである。

確かに業績は上がっていったが、
土台とも言える事務がしっかりしていなければ話にならない。

こういう時、ベテランの支店長なら、じっくりと行員の状況や、
お客様との対応を見ながら行動を開始するのであるが、
新米支店長の私は、いきなりアクセルを目一杯踏み込んでしまった。

ブレーキがきかない。

事務の悪化につれて、肝心の業績も落ちてきた。

私がイライラするから、皆疲れる。

疲れるから仕事が遅くなる、そんな悪循環となっていった。

こんな状態になれば私だって分かってくる。

「これはマズイ」と自分なりに反省し、
私はその打開策として行員との面接を開始した。

これは効果があった。

段々と皆の気持が分かってきた。

そんな折り、入行二年目の女子との面接となった。

その子は父親とは早く死別し、母親と妹の三人暮らしをしていた。

しっかりしており、役席の評判も良かった。

私も安心して、かなりくだけた雰囲気で話し合った。

最後に何か希望はないか、何でもいいよと気楽に言った。

この子はちょっと首をかしげ躊躇していたが、
意を決したかのように、
「支店長……、支店長は最近何で笑われないんですか?」
と聞いてきた。

「え?」と私はびっくりし、その子の顔をまじまじと見、そして
「俺、笑わないか?」と聞き返した。

その子は頭をコクンと下げ、じっと私の顔を見ている。

「どういうことか説明してくれ」と、
私も落ち着きを取り戻し改めて聞き直した。

彼女は緊張したようだが、しっかりした口調で話し始めた>>>

スポンサーリンク

↓Facebookの続きは、こちらからどうぞ↓

女の話はこうであった。

実は支店長もご存じのことと思いますけど、私には父親がおりません。

私が子供の頃、死んでしまったんです。

だから、私、何となく父親みたいな人にあこがれを持っているんです。

私、本当の父はほとんど知らないんですけど、
自分で勝手に理想の父親像というのを作ってしまったんです。

私の父は背が高く、ハンサムで、明るく素晴らしい人なんです。

写真で見る父は、そんな人じゃないんですけど……でも、
そんなの関係ないんです。

私、こんなこと言っては失礼なんですけど、
支店長は、私の理想の父親像ではないんです……。

でも一つだけあるんです。

それは支店長の笑い声なんです。

支店長が転勤されてこられた時は、
いつも大きな声で笑っていらっしゃったんです。

毎日支店長の笑い声を聞いているうちに、
父はきっとこんな笑い声を出すんじゃないかなと、
自分で勝手に決めてしまったんです。

それからはお札を数えていても、電卓を叩いていても、
支店長がお客様とか、行員の若い人なんかと話している時、
大きな声で笑われると、それだけで安心するんです・・・。

だから、私、しょっちゅう父と一緒にいるみたいで、
銀行に来るの楽しみだったんです。

この前も、支店長のとこにお客様が来られた時、
お茶を持って行ったら、支店長が冗談に
『この子は、うちの娘みたいなもんだ』と、大きな声で笑われた時、
私、うれしくて涙が出ちゃったんです……。

それが、最近、支店長笑われないで、怒ってばかりいて。

……何かあったんですか?

気がつかなかった。

思い上がりもいいとこだったのだ。

この子は、別に私に注意しているわけでもなく、
ましてや励ましているわけでもない。

自分の気持を率直に話しているだけのことである。

しかし、私にはストレートに効いた。

支店長の笑い声か……私はちょっとつぶやき、
「わかった」と言い、それから二、三雑談して、
その子との面接は終わった。

私は支店長室で、しばし考え、
若い女の子の意見ではあるが素直に聞こうと思った。

そして、その後は、自分の持ち味である明るさを出していくように努めた。

その子は、入行三年目の二十一歳の時、
農家に嫁いで行くことになった。

お見合いで相手は三十歳を越えていた。

「若いのになぜ?」と周りの人はいぶかったが、
私には分かるような気がした。

きっと大きな笑い声で温かく包んでくれる人であろう。

私は「おめでとう」とそっとつぶやいたのである。

スポンサーリンク