「男は人前で泣くものではない」と厳しく言ってましたよね。
だから、父さんが亡くなる時も通夜でも葬式でも
僕は決して泣かなかったのです。
あの頃、まだ幼稚園児だった弟はもう大学生です。
そして僕は社会人になって2年目。
何とか相手を見つけ、本日の結婚式にこぎつけることができました。
僕が選んだ嫁さんとそのご両親、
新しい家族のことを父さんに紹介したかった。
何より、この場で僕の大人になった晴れ姿を見てほしかった。
そんな思いを巡らせながら、
式場の控え室でぼんやりしていた僕でした。
いきなり父さん、あなたは僕の前に姿を現わし、
僕の肝を冷やしてくれました。
ドアを開けて入室してきた男性。
本日のためにスーツに身をかためた、
白いネクタイ姿の精悍な顔だち。
それは紛れもなく、
父さん、あなただったのです>>>
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ぼんやりしていた僕の頭の中に、
いきなり稲妻が光りました。
目をこすり、こすった目じりには
うっすら涙が滲んでいました。
父さん・・・
そう見えた姿は弟だったのです。
成長するごとに、顔、声、体格、なぜか仕草まで、
父さんに生き写しと誰からも言われるようになっていた弟。
弟が着用していたのは、父さんのスーツでした。
「これ父さんの服」と弟に言われるまで、気づきませんでしたが。
弟はただ、ピッタリだからというだけの理由で着たようです。
しかし、それを知ったが最後、弟にばかり気を取られた僕でした。
どう見ても、若かりし頃の父さん、あなたに生き写しです。
繰り返しになるけれど、
父さんに、今日のこの場所にいてほしかった。
そして「育ててくれてありがとう」と言いたかった。
初めてネクタイを締めた弟の姿も見せたかった。
様々な思いが去来する中、僕に「おめでとう」と言った弟の声、
それがまたあまりにも父さんに似過ぎていて、
涙を堪えきれなくなったのです。
「男は人前で泣くものではない」
父さんの言いつけを守れなくてすみません。
けれど、本日だけは父さん、許してください。
まだ甘ちゃんの僕ですが、これからみんなを守っていきます。