見知らぬおせっかいおばあさんにありがとう!

b230
は金沢に住んでる自営業者です。

たった一人でビジネスを展開している小さな会社です。

私は疲れていました。

長年取引のある東京の大きな取引先が、
今年度限りで契約を打ち切りたいとの話でした。

大口の取引先がなくなると収入が激減します。

家のローンもまだ残っています。

子供の教育費にもまだお金がかかります。

何度か東京に足を運びましたが、
相手の返事に変化はありません。

その時、徹夜続きの私は落胆の底にいましたが、
気を取り直し、もう一度、交渉してみようと思いました。

これで最後だ。これでダメならあきらめよう。

私は金沢から東京に向かいました。

新幹線の三列席の窓側に私。

通路側はおばあさんでした。

間に中年の女性が座りました。

見知らぬ三人が並んで座りました。

新幹線が動き始めて、しばらくは沈黙の空気が流れます。

女性が新聞を読み終わるのを見計らって、
おばあさんはその女性に話しかけました。

おばあさんは、女性の指を見て、
「疲れているねえ」と言いました。

女性は物腰柔らかく、
「なぜ判るのですか」
と聞き返しました。

爪の縦皺から見立てたようです。

私の爪にも縦皺が多かったのです。

ふっとおばあさんと目が合いました。

今度は私の顔を見て、
「あんた、目の下にクマがあるね」と言いました。

身を乗り出して伸ばしたおばあさんのごつい指が、
私の目の下をなでました。

おばあさんの手は働き者の手でした。

太くて短くて、皺だらけの指でした。

「歩いていて、パッタリ倒れるかもしれないから気をつけねば」

おばあさんは、私の顔をうかがいながら言いました。

気をつけろと言われても、どうすることもできないのです。

今、仕事を休むわけにはいかない。

出張続きで土日もほとんど休んでいなかったし、
徹夜の日もありました。

私は必死でした。

私にどうしろというのか。

おばあさんは無遠慮に話しかけてきます。

静かに体を休めたいところでしたが、
このおばあさんのせいで、
仮眠はあきらめるしかありませんでした。

「お風呂に入って、ここの眉間をようっと揉んだがいい」

「お風呂には、ゆずを入れるがいい」

「野菜をとってる?ぬか漬けを食べると元気が出るで」

などとおばあさんは、私にアドバイスをしました。

私へのアドバイスが終わると、
おばあさんは女性に話しかけるようになりました。

おばあさんと女性の会話が続きました。

その会話の中で、聞き逃せないような、
重要なおばあさんの話が出てきました>>>

スポンサーリンク

↓Facebookの続きは、こちらからどうぞ↓

ばあさんが話しました。

「私の病気はもう治らないらしい。死ぬのを待つだけ。
 あと半年だと言われた。
 でも孫娘が最期の面倒を見てくれるというが。
 うれしいなあ。こんなうれしいことはないがね。
 それで、こうして出てくることにしたが」

おばあさんは、大宮で降りるそうでした。

余命半年を宣告された老婆が、
一大決心をして故郷から出てきたのです。

このおばあさんのことを鬱陶しがっていた自分を恥じました。

「大宮からどの電車に乗ればいいのかわからないのよ。
 それが気がかりでねえ」

おばあさんは、笑みを浮かべました。

死を目前にした人の笑顔かと思うと、
何とも言えず美しく見えました。

私も大宮で新幹線を乗り換えることを
おばあさんに伝えました。

大宮に到着しました。

新幹線の改札口まで、おばあさんを案内し、
在来線の乗り場を教えました。

おばあさんは、ホームに降りて、階段をゆっくり下ります。

小柄でも、しっかりした体躯。

畑仕事のせいでしょうか。

膝が外側に曲がっていて、
ひょこたん、ひょこたんと体を揺すって歩いています。

度の強そうな丸い眼鏡。

リュックを担ぎ、両手に杖と風呂敷に包んだ荷物。

これでは、階段の手すりもろくにつかめません。

荷物を持とうかと尋ねても首を横に振るだけ。

人々が追い越して行きます。

「それじゃ」と私が言うと、

「ハイハイ」とおばあさんは頷きました。

おばあさんは、ゆっくりと改札口を抜け、
振り向きもせず、雑踏に消えていきました。

私は心の中で、おばあさんの無事を祈りました。

おやっと思いました。

見知らぬ老婆の安否を心配している自分に気づいたからでした。

おせっかいで鬱陶しいおばあさんだったけど、
私の心に涼しい風を吹き込んでくれました。

そして、私の心の中に小さな変化が起きました。

不治の病におかされた老婆は、おそらく最期の時まで、
身近な他人の健康を気遣っているのだろう。

そう思うと、私の頬に笑みが浮かびました。

もしも私が仕事の悩みをあの老婆に打ち明けていたら、
「あきらめるのはまだまだ」
と励ますに違いない。

私は目的地に向けて、一歩足を踏み出しました。

「よしっ!」と気合いを入れました。

ビジネスに勝敗はつきものです。

精一杯やるだけです。

見知らぬおばあさん、ありがとう。

参考本:ふりかえれば愛だった! 涙の実話
(コスモトゥーワン)
「見知らぬ老婆にもらった励まし」を下敷きにしています。

スポンサーリンク