ものすごく貧乏でしたが、
僕ら姉弟は嫌な思いをしたことがないんです。
それは母が貧乏を笑いに変えてくれたからでした。
たとえば、お金が無くて、お米が買えないときには、
”あられ”がご飯茶碗に山盛りいっぱいで
出てきたことがありました。
「今日はあられたい。あられご飯なんて、
なかなか食べられんとよ」
そう言われると、なんだかうれしい(笑)。
裏では、つらいこと、泣いたこと、
たくさんあったと思います。
でも、どんな状況でも、
明るく笑いに変えてくれる母がいたから、
貧乏でも卑屈になることはありませんでした。
そんなプラス思考の母が、
いつも口癖のように言っていた言葉があります。
「あおいくま」
これは「あせるな」「おこるな」「いばるな」
「くさるな」「まけるな」の5つの言葉の
頭文字を並べたものです。
もともとは、「おいあくま(おい、悪魔)」で、
京都のあるお寺に伝わる言葉だそうです。
でも、うちでは、語順を並べ替えて、
可愛く「あおいくま」(笑)。
「人生で大切なことは、この五つたい」
母はそう言って、家の柱に貼っていました。
小さい頃から毎日眺めていたので、
自然と僕の口ぐせにもなっていきました。
ただ、僕がこの言葉を本当に理解できたのは、
人気テレビ番組「ものまね王座決定戦」で
初優勝したときでした。
それまで、来る日も来る日も
頂点を目指して頑張ってきたのに、
収録が終わって楽屋に帰ってきた途端、
なぜだか猛烈な虚しさい襲われたんです。
「優勝したって、何になるんだろう…」
そのときにも、「あおいくま」が浮かびました。
でも、母さん、人に負けずに、頑張ってきて、
これだよ……と、落ち込みました。
でも、待てよ……とそのとき思ったんです。
そうして、「あおいくま」の本当の意味を
理解することになるんです>>>
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そうか!
この言葉は、「あの人に負けるな」
と人に対しての言葉だと思っていたけれど、
本当は自分に対する言葉だったんだ!
その瞬間、目の前の景色が、ガラッと変わりました。
ここはゴールじゃない、
まだまだ自分の目指す道のりは遠くて長いんだ、と。
「優勝しても、仕事が急に増えるわけじゃなかでしょう。
本当の勝負はこれからたい」
母に電話で優勝の報告をすると、
間髪をいれず、そう返ってきました。
母は僕の気持ちをお見通しでしたね。
「自分に焦るな、自分に怒るな、自分に威張るな、
自分に腐るな、自分に負けるな」
その言葉を胸に、芸を磨いてきました。
ロボットの五木ひろしさんなど、
他にはない、自分流の芸を生み出せたのは、
母の「あおいくま」があったからだと思います。