腰から下と両腕が全面的に麻痺。
自分で立つことなどおぼつかなく、
ベッドでも自分ではほとんど動けない。
あわれこの上ない、植物的人間になってしまったのだ。
不幸といえば、こんな不幸なことはない。
ある日、突然、谷のどん底に突き落とされたような気持である。
大小はどちらも看護師さんの手を煩わし、
風呂は特浴の機械浴。
ベッドから車いす、車いすからベッドへの移動は、
看護師さんの首にぶら下がって移動する。
ある日、
「Iさん、自分で立とうとしていますね。
その気があれば近いうちに立てますよ」
と言われた。
そのひと言が私に大きな勇気を与えてくれた。
立てそうな気がしてきて、危険を覚悟で
ベッドの手すりにつかまり、立とうと試みた。
足元はかなり崩れそうだったが、
必死で立つと立てているではないか。
「立てたんだ!」
思わず声が出た。
反射的にナースコールを押してしまった。
呼ばれた看護師さんは・・・>>>
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「あっ、Iさんが立っている!」
呼ばれた看護師さんは、ナースステーションに走って戻り、
「Iさんが……」と口々に言い交わす声が聞こえてきた。
その日詰めの看護師さんが、四、五人私に駆け寄り、
「本当に良かったですね」
「頑張りましたものね」
と喜んでくれた。
「ありがとうございます。皆さんのおかげです」
と言ったとたん、私の目からポロリと涙が落ちた。
看護師さんも抱き合って涙を流している。
涙は後から滝のように頬を伝った。
それからは、ベッドの金具を手がかりに、
まずは立つことに専念した。
しばらくすると、看護師さんの付き添いで、
歩行器を使って廊下を往復できるまでになった。
四か月の訓練を経て、ついに退院できたのだ。
不治の難病を宣告されたときの絶望感。
回復の兆しが見えなかったときの辛さ。
それでもリハビリを通して、出会ったたくさんの感動。
今は、「やればできるのだ」という実感がわいてくる。
これからも出来るかぎり、自分の足で
この大地を踏みしめて歩いて行きたい。
そんな思いで今日を生きている。
出典:人間っていいな!涙がこぼれる「いい話」
(コスモトゥーワン)「これからも自分の足で大地を踏みしめて」より