笑わせて、泣かせてくれるお父さん

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年の正月に久しぶりに幼なじみの女友達が帰省し、
一緒に飲んだときに聞いた話。

彼女の家は大きな果樹園で普通に育ったのですが、
ただ一つ父親が吃音(どもり)気味でした。

しかしそんなにひどいわけじゃなく
「よ、よ、よくきたな、あ、あ、あがれ、あがれ」
文章にしてもうまく伝わらないが、それを早口で言う感じ。

俺なんかは近所だったんで、
子供のころから可愛がってもらっていて、全く気にしたことなんか無かったし、
表現はおかしいかもしれないが、口癖ぐらいに思ってました。

それでも彼女は、自分の父親のそんな話し方をかなり気にしていたそうです。

同性に対しては特にそうで、
友達は普通にいても、父親の話を聞かれたくない様子で、
家に連れてくることは全くありませんでした。

そういうのは何となく伝わるもので、
彼女が中学、高校と成長するごとに、
父親との溝も大きくなっていきました。

お父さんは本当はものすごく面白い人で、
俺がリンゴを買いに行ったときなど
「ひゃ、ひゃ、ひゃく、100円でいいぞ。
 い、い、今のは、に、に、200円て意味じゃないぞ」
と自分がどもり気味なのを逆手に取って笑わせてくれるような人でした。
(伝わるかな)

彼女は高校を卒業して都会に就職が決まり、
家を出て一人暮らしを始めることになりました。

そのころ父親とは話をすることはほとんどなくなり、
お父さんもそのころは元気がないようでした。

旅立ちの日、駅のホームには何人かの友達も見送りにきていました。

そのせいか、お父さんは隠れるようにしてたそうです。

しかし、いよいよ出発のブザーが鳴り、扉がしまった時、
後ろからお父さんが友達をかきわけて、彼女に一枚の紙を見せました。

「何よ?」

彼女は怪訝な思いになりました>>>

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父さんが彼女に見せた一枚の紙、
そこに書いてあることを聞いて、俺は噴き出しました。

それには墨で「ガ、ガ、ガ、ガンバレ!」と書いてあったそうです。

俺はそれを聞いた瞬間「うっそー?」と言いながら爆笑しました。

でもそのうち何でか分からない、泣けてきてしょうがなかったのです。

素直に「ガンバレ」って書けばいいものを、
照れ隠しに文章までどもって見せた気持ち。

でもそれでまた娘を怒らせると思い、
なかなか渡せなかった気持ち。

その話を聞いて二人で泣き笑いしてました。

ちなみに彼女のお父さんは今も元気です。

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