ショーの最中、何気なく左手の薬指に目を向けると、
リングについているはずの私の誕生石、ムーンストーンが
ないことに気づきました。
自分の顔が青ざめていくのがわかりました。
なぜならその指輪は、隣にいる彼からもらったエンゲージリング。
5ミリにも満たない小さな石なので、
この人混みでは、たぶん見つからないだろう。
でも……。
途方に暮れていると、女性のキャストさんが声をかけてくれました。
「どうされましたか?」
「指輪の宝石を失くしてしまって……」
自分でも思いがけず、落ち込んだ力のない声になってしまいました。
「わかりました。ショーが終わったら一緒に探しましょう。
大丈夫、きっと出てきますよ!」
私を励ますように、明るくそう言ってくれるキャストさん。
ショーが終わるなり、彼女と数人のキャストさんが駆けつけてくれ、
地面にはいつくばって探してくださいました。
「絶対にあきらめないでください。必ず探しだしますから」
男性のキャストさんが励ましてくれます。
すでに日が落ちて薄暗くなっていましたが、
懐中電灯を照らしながら必死で探すキャストさんたち。
「ゴミもすぐには捨てずに保管してあるので、
そこも探してみますね」
1時間近く、尽力してくれたのですが、
残念ながらムーンストーンは出てきませんでした。
彼も、あの小さな石を見つけるのは不可能だからあきらめよう。
また同じのを買えばいいよ、と怒りもせず慰めてくれました。
「キャストのみなさん、彼女のためにこんなにしていただいて
ありがとうございます。もう十分です。みなさんが一生懸命さがしてくれたこと、
本当にうれしかったです。それに彼女はすぐモノを失くすんです。
だから、気にしないでくださいね」
彼がおどけて言うと、一気に場が和みました。
私も内心、ひどくショックを受けていましたが、
一生懸命探してくれたキャストさんたちに
沈んだ顔を見せるわけにはいきません。
「今日は本当にありがとうございました」
そう言ってシーを後にしたのでした。
1週間が経ちました。
指輪のことは忘れたわけではありませんでしたが、
すっかりあきらめていました。
そんなとき、ディズニーシーの別のキャストさんから、
電話がかかってきたのです>>>
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「申し訳ありません。あれからゴミ袋も探してみたり、
しばらく待ってみたのですが、やっぱり出てこなくて…。
大切なものだったでしょうに、お力になれずすみませんでした」
お詫びの電話でした。
私の不注意で紛失してしまったのに、
あんなに親身になって探してくれたうえに、
その後も探し続けていてくれたなんて……。
いくらそれが仕事とはいえ、たった一人の客のために、
なかなかできることではありません。
その上、わざわざ電話をくれて、
「探せなくてごめんなさい」とお詫びをするなんて。
私が驚きと感謝をお伝えすると、
キャストさんはこう言いました。
「たとえば失くされたものが、
どこにでも売っている一枚のハンカチだったとします。
でも、ご本人にとっては忘れられない思い出が詰まっていたり、
大事な人からのプレゼントだったりする、
かけがえのない、とても大切なものかもしれません。
だから、私たちは、どんな落とし物でも徹底的に探すんです。
ましてやこのたびは指輪の石ですから、
さぞかし大切なものだったのではないかと……。
にもかかわらず、探しきれなかったこと、本当に申し訳なく思っています」
私はあの指輪がエンゲージリングであったことを言っていませんでした。
なのに、そこまで思って探してくれていたなんて……。
「こちらこそ、ありがとうございます」
声が震えてしまい、これだけ言うのがやっとでした。
今、私の左の指輪には宝石のない土台だけのリングがはまっています。
残った土台にリングに新しく宝石を買って入れようと思いましたが、
ディズニーシーでの思い出を忘れたくなかったのです。
彼も、私の提案に、おだやかにうなずいてくれました。
そして、「じゃあ、もう一度」と言って、
土台だけのリングを左の薬指にはめてくれました。
結婚して妻になり、指輪の数が増えたのと同時に、
落とし物をしなくなりました。
あれが最後の、大きな落とし物になりそうです。