「あの、バージンロードのことなんですが、
エスコート役は直前でも変更可能なのでしょうか」
事前のお打合せでは、お父さまの足がご不自由なため、
新婦の7つ年上のお兄さまが、お父さまの代わりに歩かれることになっていました。
「大丈夫ですが、お兄さまのご都合が悪くなってしまったのでしょうか」
いったいどうしたのだろうと、おうかがいすると、
「娘には内緒なのですが、実は主人が歩く練習を
しているんです」
「娘の結婚式が決まってからというもの、
時間ができると『リハビリに連れて行ってくれ』と言うようになって、
それも子どもたちには内緒で」
「バージンロードを歩くために、ですか」
私は胸がいっぱいになりました。
「わかりました。ぜひ、お父さまにお願いしたいです」
支度を終えた新婦がバージンロードの前で待機していると、
車椅子のお父さまとお母さま、そしてお兄さまが来られました。
「お兄ちゃん、よろしくね」
新婦が声をかけると、ウエディングドレス姿の妹を見つめながら、
お兄さまは黙って首を横に振りました。
「えっ、どういうこと?」
答えの代わりに、お兄さまが少しかがんでお父さまに肩を貸されました。
お母さまは既に涙ぐみながら、お父さまに杖を手渡されます。
「え・・・、お父さん?」
「行くぞ」
「・・・・はい」
新婦は瞳をうるませて、お父さまの腕に手をかけました。
お父さまがエスコートするのではなく、
新婦がお父さまを助けるかのように支え、
歩みを合わせているのが、こちらからもわかります。
お父さまは堂々と前を向かれ、歩みを進めていきました。
新郎の背中をぽん、と叩き「頼んだぞ」とお父さまの声が聞こえたような気がしました。
披露宴の半ば、
突然司会者がこう切り出したのです。
「本来、ここで祝電を披露させていただくのですが、
ここに一通のお手紙をお預かりしておりますので、ご披露させていただきます。
差出人は新婦のお父さまです。それでは、代読いたします>>>
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S(新婦の名)へ。
私は静岡の田舎で男兄弟ばかりの中で育ったものだから、
女の子をどう育てていいのかわからず、母親に任せっきりにしていました。運動会や学芸会もほとんど行けず、仕事ばかりしてきた父親でした。
すまないと思っています。
ただ、父親の務めであると思いながら、どんな仕事も一生懸命やってきました。
それだけは自信を持っています。
とはいっても、あなたにとってみれば、厳しくて、門限にもうるさくて、
うざったい父親だったでしょう。でも、君がうちの娘に生まれてきてくれたこと、
本当にうれしかったんだ。今まで言ったことなかったけど、
本当にありがとう。今日、あなたが花嫁となって、O家の人間からU家の人になっていくこの日に、どうしても何かしたくて、
恥をしのんで、お母さんとリハビリをがんばった。
これで今まで何もできなかったことは許してもらえるとうれしいです。
Hくん。どうぞ、Sをよろしくお願いします。
あふれ出る涙をぬぐう新婦。
その横では、新郎がお父さまに向かって頭を下げています。
会場のあちこちで、鼻をすする音が聞こえてきました。
読み終えたお父さまからの手紙をしまった司会者が、もう一通、封筒を取り出しました。
「実は、新婦からもお手紙を預かっております。続けてご披露させていただきます」
その手紙にはこんなフレーズがありました。
「・・・いつも怒ってばかりで、門限も厳しくて、
お父さんの存在が嫌になったこともたくさんありました。
でも、今は、厳しく育ててくれたことにとても感謝しています」
先ほどまで堂々とされていたお父さまも、目を真っ赤にしていらっしゃいます。
会場は感動に包まれ、温かくやさしい拍手がしばらく鳴りやみませんでした。
出典:「結婚式で本当にあった心温まる物語」
山坂大輔 著 あさ出版より