職業に貴賤はない。それは事実だが・・・

b712
る会社で、電気工事士に従事していました。

しかし、その会社が業績不振になり、
リストラを実施せねばならぬ状態になりました。

こんな時の会社の環境は、疑心暗鬼になり、
雰囲気はますます暗くなってきます。

私は誰かが辞めさせられるなら、
自分が辞めれば一人は救われると思い、
自分から申し出て退社しました。

その後、し尿汲み取り(役場の現業職)
に従事することになったのです。

妻と長女は事情を理解し、早くに納得したのですが、
長男が反発して一週間も飯を食わないような状態でした。

長女は高校生で、長男は中学生でした。

反抗期の長男には無理もないことです。

でも、長男には時間をかけて言い聞かせました。

『職業に貴賎はない。
 誰かがやらねばならない仕事が世の中にはあるんだ。
 お前は、もし、友達の父親が汲み取りをしていたら、
 そいつと付き合わなくなったり、
 その父を軽蔑したりするのか』

諄々と言い聞かせ、ようやく長男も納得したようです。

ある日のことでした。

地元の本屋さんで汲み取り作業をしていたら、
女子高生数人が遠くから来るのが見え、
その中に長女がいるではありませんか>>>

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の背中に冷や汗が流れました。

作業による汗ではなく、
脇の下からも悪い汗が出てきました。

友達の手前、こんな父親の姿を見られる娘の心境はどうだろう。

年頃の女の子です。

友達の見る目は、
彼女らにとって大きい意味を持つ年代でもあります。

娘が恥ずかしく思いやしないかと、
私は、とっさに物陰に隠れようとしたのです。

その時でした。

『お父さん、頑張って~』
少し離れた所から、この私に向けて、
娘が声をかけてきたのです。

この時の私は、驚きのあまり
複雑な笑いを返していたかと思います。

その後、深い自省の念がこみあげてきました。

私は、日頃言ってきたことと、
自分のとった行動の違いに情けなさを感じたのです。

職業に貴賤は無いという長男への説得は、
表面上だけの薄い言葉だったのか。

娘の方が人間としてどれほど立派か、
それを思い知らされた場面でした。

今でもこの時のことを思うと、
娘への感謝とともに、自責の涙がこぼれ落ちます。

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