「出発前の飛行機に手を振る
ライン整備士の姿に憧れて・・・」
と言って入社してくる
整備士は少なくありません。
今でこそ整備士が手を振りながらお客様を見送る光景は
当たり前となっていますが、
もともとは、一人のANA整備士の
「お客様への想い」からであったことをご存じでしょうか。
それはまだB(ボーイング)737型機が
飛び始めた(1973年)頃のお話です。
この頃、ライン整備士(飛行機が到着し、次に出発する間に必要なチェックをして飛行機の安全を確認し承認する人)は、
飛行機が自走するとすぐに事務所に戻ってしまうことがほとんどでした。
たまに、運行乗務員(パイロット)に
「いってらっしゃい」と手を振って見送る人もいたようですが、
出発する飛行機に対して手を振っている整備士はいませんでした。
そんなある日のこと。
沖縄空港支店整備課に配属されたK君は、
先輩整備士Mさんがいつも出発する飛行機に向かって、
最後まで手を振っていることに気づきました。
そこで、Mさんは
「どうしていつも出発する飛行機に
手を振っているんですか?」
と聞いたのです。
するとMさんは次のように答えました>>>
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「おう。あれか。あれはな
俺、もともと沖縄の出身なんだよ。
だから、お客様がこんな遠い
沖縄まで高いお金を出して、
青い海と輝く太陽を楽しみに来てくれて
ありがたいなって思うし、
真っ黒に日焼けして帰っていく姿を見ると
『よかったですね。来たかいがありましたね』
って思ってうれしくなる。
反対に、台風や雨の日が続いてしまって
真っ白い肌のまま帰っていくお客様を見ると申し訳なくて、
『ぜひもう一度、すばらしい沖縄を見に来てください』
って、思う。
だから、楽しく過ごしてくださった方はもちろん、
残念な思いをした方にも沖縄に行ってよかったねって、
楽しい思いでになったねって思って欲しくて、
その気持ちを伝えたくて手を振っているんだ。
時々機内のお客様が手を振り返してくれるのが見えると
すごくうれしいんだよな。
俺たちが整備した飛行機に乗っている
お客様から手を振ってもらえるなんて
幸せなことだと思わないかい?」
Mさんの話に感動したK君は
この時以来、Mさんと同じ気持ちで
手を振って見送るようになりました。
その後、このお見送りは
沖縄空港支店整備課にとどまらず
どんどん広まっていきました。
そしていつしか「Good-Bye Wave」と呼ばれるようになり、
世界中の空港で当たり前の光景となったのです。
実は、この「Good-Bye Wave」
規定やマニュアルには
一切定められていません。
よく見てみるとわかりますが、
整備士たちの手の振り方はそれぞれ違います。
でも、お客様のことを思う気持ちは皆同じ。
「この旅を、安全に楽しく過ごしてほしい。
いってらっしゃい」
そんな想いを込めて
今日もまた、整備士たちは
手を振っているのです。
炎天下の日も、寒い冬の日も
たとえ台風の日であっても
姿勢を正して、手を振り続ける整備士たち。
私たち客室乗務員(CA)も
その姿を窓から見ています。
「私たちが心を込めて
整備した飛行機です。
どうぞ安心して乗務してください。
そして、私たちの分まで
お客様が快適に過ごせるよう
サービスしてください。
私たちの想いは託しましたよ」
そんな、彼らの熱い声が
いつも聴こえてきます。
その安心感と励ましに
「今日も頑張ろう」と思うのです。
実は、手を振っているのは
整備士だけではありません。
機内の清掃を担当している係員たちが
一列になってお見送りをしている
空港もあります。
今でこそ日常の何気ない光景なのですが
毎回、手を振る姿に胸が熱くなります。
「ありがとうございます。
行ってまいります。
私たちにお任せください」
手を振り返しながら
しっかりバトンを受け取り
私たち乗務員は飛び立ちます。
規定やマニュアルにも書かれていない
一人の整備士が始めた何気ない行動が
多くの人の共感を得て世界中に広がった。
強制的にさせられたわけではなく
それぞれがそれぞれの意思でその列に加わっていった。
とてつもなく偉大なことだと思います。
でもそれは、皆が
同じ想いをもっているからこそ。
だからこそ、つながっていったのでしょう。
ANAでは「気づき」を大切にしています。
自分え気づき、考え、動く。
それが、また新しい気づきをつくるのです。
出典元:空の上で本当にあった心温まる物語
著:三枝理恵子(あさ出版)