2019年2月に亡くなられたドナルド・キーン博士のエピソードです。
ドナルド・キーンさんが、京都に留学生として下宿していたときのこと。
「或る晩のことです。十五夜で、それはそれはきれいな月の晩でした。
私は大学からの帰り途、その月を見上げて
惚れ惚れしながら京都の町を歩いておりました」
キーン博士は思いました。
こんな月の光に照らされた竜安寺の石庭はさぞ美しかろう。
是非見てみたい。
博士はその足で竜安寺へ向かいました。
当時(大戦前)の京都の寺はいずこも
終日門が開いていて、人の出入りも自由だったといいます。
「私は竜安寺の門をくぐって本殿に入り、
あの有名な石庭を前にした縁側に座り込みました。
月光に照らされた石庭の美しさ。
私はしばらく身動きができませんでした。
三十分、いえ小一時間ほども私はぼんやりと庭を眺めていました。
もう十分すぎるほど石庭に見惚れた後です。
ふと傍らへ目をやると同時に私は驚きました>>>
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「いつの間にか私のそばに、一杯のお茶が置いてあったのです。
誰が?いつの間に?どうして?
想像するしかないのですが、おそらくお寺の誰かだったのでしょう。
外国人の若い学生が石庭に見惚れているのを見て、
邪魔をしないように、そうっとお茶を置いていってくれたのです。
私は、とても感激しました」
こんなもてなし方ができる民族は日本人だけだ、
と博士は思ったそうです。
「そして、だからこそ私は日本のことが大好きになりました」
と博士は結びました。