親父の作った星の形のにんじん

b825
の母親は、俺が2歳の時にがんで死んだそうだ。

まだ物心つく前のことだから、
当時は寂しいなんていう感情もあまりわかなかった。

この手の話でよくあるような、
「母親がいないことを理由にいじめられる」なんて事も全然なくて、
良い友達に恵まれて、それなりに充実した少年時代だったと思う。

こんな風に片親なのに、人並み以上に楽しく毎日を送れていたのは、
やはりほかならぬ父の頑張りがあったからだと今も思う。

あれは俺が小学校に入学してすぐにあった、
父母同伴の遠足から帰ってきたときのこと。

父は仕事で忙しいことがわかっていたので、
一緒に来られないことを憎んだりはしなかった。

一人お弁当を食べる俺を、
友達のY君とそのお母さんが一緒に食べようって誘ってくれて、
寂しい思いもしなかった。

でもなんとなく、Y君のお弁当に入っていた
星形のにんじんがなぜだかとっても羨ましくなって、
その日仕事から帰ったばかりの父に
「僕のお弁当のにんじんも星の形がいい」ってお願いしたんだ。

当時の俺はガキなりにも、
母親がいないという家庭環境に気を使ったりしてて、
「何でうちにはお母さんがいないの」
なんてことも父には一度だって聞いたことがなかった。

星の形のにんじんだって、ただ単純にかっこいいからって、
羨ましかっただけだったんだ。

でも父にはそれが、母親がいない俺が
一生懸命文句を言っているみたいに見えて、
とても悲しかったらしい。

父は俺のそばにより思いがけないことをした>>>

スポンサーリンク

↓Facebookの続きは、こちらからどうぞ↓

然、父は俺をかき抱いて
「ごめんな、ごめんな」って言って泣き出したんだ。

いつも厳しくって、何かいたずらをしようものなら
遠慮なくゲンコツを落としてきた、
そんな父の泣き顔を見たのはそれがはじめて。

同時に何で親父が泣いてるか分かっちゃって、
俺も悲しくなって台所で男二人、しくしく泣いたっけ。

それからというもの、俺の弁当に入ってるにんじんは、
ずっと星の形をしてた。

高校になってもそれは続いて、
いい加減恥ずかしくなってきて
「もういいよ」なんて俺が言っても、
「お前だってそれを見るたび恥ずかしい過去を思い出せるだろ」
って冗談めかして笑ったっけ。

そんな父も、今年結婚をした。

相手は俺が羨ましくなるくらい気立てのいい女性だ。

結婚式のスピーチの時、俺は「星の形のにんじん」の話をした。

そのとき、親父は人前だってのに、またほろほろ泣いた。

でもそんな親父よりも、再婚相手の女性のほうがもらい泣きして、
もっとぼろぼろ泣いてたっけ。

良い相手を見つけられて、ほんとうに良かったね。
心からおめでとう。

そしてありがとう、お父さん。

スポンサーリンク