上の子は、小学3年生、下の子は小学1年生でした。
お母さんは、生活を支えるために朝6時に家を出、
ビルの清掃、それから学校給食の手伝い、
夜は料理屋で皿洗いと、身を粉にして働きました。
でも、そんな生活が半年、8ヵ月、10ヵ月と続くうちに、
身も心もクタクタになってしまいました。
いつしかお母さんの頭の中には、
いつも死ぬことばかりが思い浮かんできたのです。
そんなある日、
お母さんは、朝出がけに子供たちに置手紙を書きました。
「おにいちゃん、おなべに豆がひたしてあります。
これを今晩のおかずにしなさいね。
豆がやわらかくなったら、おしょうゆを少し入れなさい」
その日も一日、くたびれきって帰ってきたお母さんは、
今日こそ死んでしまおうと睡眠薬を買っていました。
そんなことはまったく知らない二人の子供たちは、
すやすやと眠っています。
その時、彼女は、
「お母さんへ」
と書いた1通の手紙を目にしました>>>
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手紙にはこう書いてありました。
「お母さん、ごめんなさい。
ぼくいっしょうけんめい豆をにました。
でもしっぱいしました。
だからごはんに、水をかけて食べました。
お母さん、あしたの朝、
もういちどぼくに豆のにかたをおしえてください。
そしてぼくのにた豆を一つぶだけ食べてみてください。
ぼく先にねます。
お母さん、おやすみなさい」
このお兄ちゃんの手紙を読んだお母さんの目に、
どっと涙があふれました。
「ああ、お兄ちゃんは、あんなにも小さいのに、
こんなに一生懸命に生きてくれているんだ」
お母さんはそう言って、
お兄ちゃんの煮たしょっぱい豆を、
涙と一緒に一つ一つ押し頂いて食べたのです。
それ以来、
「一粒の豆」
がお母さんの宝物になりました。
あの時のことを思えば、
どんなことだって我慢ができるという、
お母さんだけの
「秘密の宝物」
なのです。