寒いのも冷たいのも、手が汚れるのも皆同じ

b866
月が明けて間もない日のことだった。

セルフスタンドで給油してると、
対面のスペースで若い兄さんがタイヤに空気を入れ始めた。

据え置き型のなんだけど、あれ長いホースまとめるの面倒くさいのか、
誰も綺麗にまとめず、いつも機器の足元にぐちゃって置いてある。

その日も店員がまだ気付いてなかったのかぐちゃぐちゃのままで、
給油後に空気圧見ておこうか迷ったものの、見送った矢先であった。

正直、あれを束ねるとなると手が汚れて億劫である。

自分が使った後にぐちゃぐちゃのままでは気分が悪いし、
かと言ってヨソの奴らがぐちゃぐちゃにしたままのを、
自分が手を汚してまで綺麗にするのも癪だった。

そんな小者じみた判断でタイヤの空気入れを見送ったのだ。

空気を入れてた若い兄さん、
彼も入れ終わったら、皆と同じだろうと眺めてた。

しかし、彼のやることは少し違っていた>>>

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の兄さんは、全てのタイヤに空気を入れ終わった後、
わざわざホースを伸ばし切ってねじれを取り、
綺麗に束ねて所定のフックに引っかけていた。

すぐ傍の水道で手を洗い、寒さに身を震わせながら、
かじかむ手をすり合わせながら彼は車に乗り、
そのまま出て行った。

寒いのも冷たいのも、手が汚れるのも皆同じなのである。

皆同じ中で、彼だけがホースをきちんと片づけていった。

ただそれだけのことと思われるかも知れないが、
そのことに俺は羞恥とか感動とか、色んな感情が込み上げてきた。

彼の行いこそが当然であるのだが、
それを実行できるか否かの差がそこにあった。

今年一年、この気持ちを忘れずに過ごしていきたい、
そう思った正月明けの日の出来事だった。

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