天使だったかもしれない、ゆうきくん

b981
う死にたい・・・。もうやだよ・・・。つらいよ・・・。」

妻は産婦人科の待合室で人目もはばからず泣いていた。

前回の流産のとき、私の妹が妻に言った言葉・・・

「中絶経験があったりすると、
 流産しやすい体質になっちゃうんだって。」

そのあまりにも人を思いやらない言葉に私は激怒し、
それ以来 妹夫婦とは疎遠になっている。

妻は口には出していないが、もの凄く辛い思いをしていたと思う。

だから、今日までなんとか2人で頑張ってきたが、3度目の流産。

前回も前々回の時も「また、頑張ろう」と励ましてきたが
励ます言葉が妻にプレッシャーをかけるような気がして、何も言えなかった。

いや、そうではない。

今考えるとおそらく、3度目の流産を告げられて
子供がいない人生を私は模索し始めていたんだと思う。

私は、冷淡な動物だ。情けない。

「ごめんね・・・。でも、もう私頑張れないかも。もう、駄目だと思う。」

待合室に妻の嗚咽だけが響く。

「ううん・・・○○(妻の名前)が悪いわけじゃないんだから。
 こればかりは、運だから・・・・」

それ以上、かける言葉が見つからなかった。

その時、4~5歳ぐらいの男の子が近づき、
そして妻の隣に座った。

その子との出会いは、忘れられないものになった>>>

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のね、これあげるから、もう泣かないで」

その子が差し出した手の上には2つの指輪。
おそらくお菓子のおまけだと思う。

男の子「水色のは泣かないお守り。こっちの赤いのはお願いできるお守り。」

私「いいの?だって、これ、ボクのお守りなんでしょ?」

男の子「いいよ、あげるよ。ボクね、これ使ったら泣かなくなったよ。
    もう強い子だから、いらないの」

私「赤い指輪は?お願いが叶うお守りなんでしょ?。これは、いいよ」

男の子「これね、2つないとパワーがないんだって。おとうさんが言ってた」

そう言うと男の子は「だから、もう泣かないで」
と言いながら妻の頭を撫でた。

少し離れたところから「ゆうき~、帰るよ~」
という彼のお父さんらしき人が彼を呼ぶと、
男の子は妻の膝に2つの指輪を置いて
「じゃあね、バイバ~イ」と言って去っていった。

今時珍しい5分刈頭で、目がくりっとしたかわいい男の子だった。

私はその子の後姿をずっと目で追っていたが、ふと隣を見ると
妻は2つの指輪をしっかりと握り締めていた。

迷信とか宗教とかおまじないとか、
そういったものはまったく信じない2人だけど
この指輪だけは、私たちの夢を叶えてくれる宝物に見えた。

その日から妻は、さすがに子供用の指輪なのでサイズが合わないため
紐をつけてキーホルダーにしていた。

それから2年半後の今年2月9日、我が家に待望の赤ちゃんが誕生した。

2770gの女の子。

名前は、あの男の子にあやかって「有紀(ゆうき)」にした。

生まれる前から、男の子でも女の子でも「ゆうき」にしようと決めていた。

ゆうきくん、あの時は本当にありがとう。

あの時、君に会えていなかったら、
君に慰めてもらえなかったら
今、この幸せを感じることはできなかったと思う。

私たち家族は、君に助けてもらいました。

君からもらった2つの指輪は、
娘のへその緒と一緒に、大事に保管してあります。

我が家の宝物です。

うちの娘も、君のように人に幸せを分けて上げられるような
子に育って欲しい。

本当に、本当にありがとう。

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