昼食時、ふつうの定食屋だと思ってそのお店に入ったら、
何となく空気感が違う。
普通だったらサラリーマンでごったがえす時間帯、
そこはすごく静かな空気が流れていた。
一番安い料理でも3千円はする高級和食店だったのだ。
悩んだ挙句、僕は顔を真っ赤にしながら正直に言った。
「予算が足りないので失礼します」
調理場から顔をのぞかせた店主が、
カウンター越しに小さな声でささやいた。
「ご予算はいかほどでしょう?」
顔から火が出そうになりながら
僕は「千円では無理ですよね?」と言った。
真っ赤な顔の僕に正面からの視線を合わせず、店主は笑顔で
「天丼はいかがでしょう?」と勧めてくれた。
「はい、お願いします」と僕。
ここは自分の居場所じゃないような、
お情けをかけていただいたような、
何だか居心地の悪い待ち時間を過ごしていた。
やがて、料理が出てきた。
出された料理を見て、僕は店主に感服することになった>>>
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実際は、それほど長い待ち時間ではなかった。
しかし、こんな時の待ち時間は、逃げ出したいほどの長さだった。
出された料理は「天丼」。
その料理を見ると、
余った高級食材らしきものが集められていた。
つまり、かき揚げ丼の天丼だったのだ。
メニュー通りの高価格の天丼ではない。
そのことで、僕によけいな気遣いをさせることなく、
ただし、他の調理の余りモノながら、
店の品格として食材には妥協していない。
感動して僕は泣きそうになった。
本当の高級店とはこういう店をいうんだなとしみじみ感じた。
帰り際、僕は悪びれず、また卑屈にもならず、
のれんの向こうの店主に大きな声でお礼を言った。
「ごちそうさまでした。本当に美味しかったです」
のれんから顔は出さないが、
やはり大きな声で店主が答えてくれた。
「こちらこそお出でいただきありがとうございます。
またのお越しをお待ちしております」