愛車を買い換える日、息子たちは…

c019
は今日車を買い換えることを二人の息子たちに伝えた。

主人が結婚する前に、私を口説くために買ったマーチだった。

「結婚して6年間乗ったのだから、
 もうそろそろ新しい車が欲しいね」
と彼は言った。

わたしも別段反対することもなく、
子どもたちにも普通の会話のつもりで話した。

そこで話は終わるはずだった。

確かに普段から、ものにも心があるのだ、
だからものを粗末にしてはならないのだ、と教えてはいた。

だけど、子どもたちが、このマーチに対して
これほど思いを抱いていたとは知らなかった。

私たち夫婦は子どもたちの優しさに心を打たれ、
それを微笑ましく、また誇りにさえ思ったが、
実際今度生まれる三人目の子供のことを考えると、
今の車では小さすぎるのだ。

だから私たちは彼らが傷つかないように
根気よく説得した。

その夜、私は、子どもたちが、
いつまでもその心を持ち続けることを願って床についた。

納車される前の日に、上の子が手紙を持って私の前に座った。

別れゆくマーチのために手紙を書いたのだった。

マーチへ。

いままで いろんなところにつれてってくれてありがとう。
これからも げんきでね。

文字の書けない下の子は、マーチの絵を、
上の子の手紙のさし絵として書き加えていた。

マーチは自動車販売店に下取りされることが決まっていた。

そこのお店の人の迷惑になるかもしれないと思いつつ、
息子たちの手紙をマーチに忍ばせ、わたしたちはマーチを見送った。

それから新しい車が来て、私たち家族は久しぶりに少し遠くまで出かけた。

それから9ヶ月がたったころ、息子たちへある手紙が届いた。

差出人は?>>>

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どもたちへの手紙、差出人はあの「マーチ」だった。

こんな手紙だった。

あつし ゆうきへ

げんきにしてるかな? ぼくはげんきです。
あつしとゆうきとわかれたあと、ぼくはあたらしいかぞくにであいました。

おとうさんとおかあさんとけんたくんのさんにんかぞくです。
けんたくんはまだまだちいさくてあまえんぼうさんです。

おおきくなったらけんたくんもあつしやゆうきのように
やさしいこになってほしいな。
いつまでもげんきでね。

マーチ

かわりに読んでいたわたしは、
途中で主人に代わってくれといい、
彼もあと少しで涙するところだった。

上の子は、まだたくさん泣いていい年頃なのに、
泣くのを必死にこらえている。

「悲しくないのにね、何で泣いちゃうんだろうね」

一生懸命笑おうとしておかしな顔になっている息子を見て、
私たちも泣きながら笑った。

下の子はよく分かってないみたいだけど、一緒に笑った。

たった一台の車が、
よく出来た夫と優しい息子たちを私に与えてくれた。

そして、けんたくんのおかあさんが
やさしい贈り物を贈ってくれた。

私は今何気ない日常の中で、嬉し涙の味をかみ締めている。

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