Hさんが交通事故死した道路わきに、
いつのころからか花束が飾られるようになりました。
月に一度の命日の日に、誰かが置いていくのです。
一人娘を亡くしたHさんのご両親も、
それを誰の行為か知らず、知り合いや近所の人々に
尋ねてみましたが、誰も知らないといいます。
そんなある日、中学で教師を務めるHさんの父親は、
教え子の群れの中に花束を抱く一人の女子生徒を見かけました。
今日は娘の月の命日、ふと思い出したHさんの父親は、
ひょっとしたらと思い、彼女に声をかけました。
予想通り、娘に花をささげてくれたのは、
この女子生徒でした。
彼は聞きました。
どうして私の娘のためにそんなことをしてくれるのか、と。
セーラー服の彼女はちょっとはにかんで、
でも素直に話し始めました>>>
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彼女が小学生のころ、遊びで靴を飛ばしながら登校していて、
はずみで彼女の靴がHさんの家の庭に
飛び込んだことがあったのだといいます。
ちょうどそのとき家にいた大学生のHさんは、
彼女の靴を一生懸命に探したけどそのときは見つけられず、
代わりに彼女にサンダルを貸しました。
恥ずかしくてHさんにお礼もろくに言わずに登校した彼女。
その帰り道、Hさんの家を通りかかった彼女は、
自分の靴がよく見えるように表に出してあるのを見つけました。
それはHさんが探し出して、彼女がいつ取りに来てもいいように
表に出してあったものでした。
まだ恥ずかしかった彼女は、
借りたサンダルと自分の靴を取り替えると、
またお礼も言わずに家へ帰ったのだといいます。
そのあと形式ばかりのお礼の電話をしたけど、
靴を探し出してもらったあのときに、
お姉さんにちゃんとお礼を言わなかったことを
ずっと気にしていた、と彼女は話したそうです。
靴を探してくれたお姉さんのことを、
お姉さんの家の近くを通るたびいつも思い出していたと。
そして事故を知り、
その事故で亡くなったのが、
あのときのお姉さんだったと聞いたことも。
それで花束を。
それでお姉さんに花束を、と……。
靴を飛ばしながら登校していたやんちゃな小学生は、
遠い国へ行ってしまったお姉さんのために
花束をたむける中学生になりました。
参考本:らくだのあしあと NTT出版
「だから、花束を……」(T.Sさん)より