著書「武士道」で日本人や侍の生き方を世界に伝え、
国際連盟の事務局次長も務めたクリスチャンの教育者です。
彼はクラーク博士で有名な札幌農学校を卒業後、
アメリカとドイツに留学し、教育者として研鑽を積んでいきます。
彼がドイツのボン大学で学んでいたときのこと。
近くの公園を散歩していると、カトリックのシスターが
大勢の孤児を連れて歩いているのを見つけました。
孤児たちは、同年代の子が親と楽しそうに遊んでいるのを見て、
悲しそうな顔を浮かべています。
その日は、ちょうど新渡戸の母親の命日でした。
そこで、彼は母親に供物をする代わりに、
あの子たちにプレゼントを贈ろうと考え、
近くにいたミルク売りの女性に声をかけました。
代金を払うから、あの孤児たちに
ミルクをあげてほしいと頼みました。
もちろん、彼からのプレゼントだということは
秘密にしてもらいました。
ミルク売りの女性はシスターにこの申し出を伝え、
孤児たち全員にミルクが配られました。
突然のプレゼントに子供たちは大喜び。
そして、全員が飲み終わると、
シスターは孤児たちに話します。
それにより、公園内には
素晴らしい時間が流れることになったのです>>>
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シスターの孤児たちに向けた話はこうでした。
「私たちに施しを下さった方が、どなたは分かりません。
ですが、私たちは感謝の気持ちを伝えるために、
全員で讃美歌を歌いましょう」
公園内には、素晴らしいコーラスが響いたといいます。
子供たちの澄み切った瞳、透き通った歌声に、
新渡戸は、母親の命日によいことができたと満足しました。
そして、シスターと孤児が公園から去るのを見届けると、
代金を払うためにミルク売りの女性のもとへ向かいました。
ところが、ミルク売りの女性は、
代金を半額しか受け取ろうとしません。
「私も孤児たちにミルクをあげたいと思っていましたが、
商売のことを考えると、なかなか行動を起こすことはできませんでした。
なので、ミルク代は原価だけ受け取らせてください。
今日は本当にありがとうございました」
ミルク売りの女性もまた、温かな心を持っていたのです。