大好きだったひっちゃん、あれからどうしてる?

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がまだ3歳くらいの時に、
姉ちゃんが大事にしてた犬のぬいぐるみ。

そのぬいぐるみを、僕はなぜかやたら欲しがったらしいのです。

姉は泣く泣く、それを僕に譲ってくれました。

いつもニコニコしてるぬいぐるみ。

一緒にいて、安心できるぬいぐるみ。

僕が泣いても、いつもニコニコやさしいぬいぐるみ。

僕は、そのぬいぐるみを羊と勘違いしてて、
「ひっちゃん」って呼んでいました。

情けない話しだけど、小学校にあがっても、
6年生になっても、僕は友達に内緒で(当然ですが)
いつもひっちゃんと一緒に寝てたのです。

ほんとに大好きだったから。

だけど、親はさすがに、これはヤバイと思ったのでしょう。

僕が学校に行ってる間に、ひっちゃんを捨ててしまったのです。

学校から帰るとひっちゃんがいないことに気づいた僕は、
母を問い詰めました。

そしてひっちゃんを捨てたことを告げられました。

「あんたはもう大きいんだからいい加減にしなさい!」

僕は怒りと悲しみで、
「なんで捨てたんだよ!バカヤロー!」
って泣きながら外へ飛び出しゴミ捨て場へと走りました。

たくさんのゴミ袋が積み重なってる中、僕は人目も気にせず、
ゴミ袋の山を必死で探しまくりました。

どのくらい探したことでしょう。

…とあるゴミ袋を開けると、
色んなゴミに埋もれたひっちゃんを見つけました。

僕は泣きながら「ごめんね…ごめんね」って言いました。

でも、ひっちゃんはいつものやさしい顔でニコニコしているだけでした。

でも、ぬいぐるみのことで親とけんかしたことを
恥ずかしく感じたせいか、
僕は、その日を境に、ひっちゃんと接することが減っていきました。

中学生になると、まったく気にかけなくなり、
やがて高校へと進学して、彼女が出来る頃には存在すら忘れていたのです。

それから何年か経って…

いくつかの出会いの喜びや別れの辛さを経験し、
好きな人と結婚することができました。

そして、やがて子供ができました。

出産が近づいたある日、カミさんが倒れて病院に運ばれました。

かなりの難産で、母子共に予断を許せない状態でした。

病院で僕は一晩中寝ないで、
カミさんと、生まれてくる赤ん坊の無事を願いました。

この時の恐怖感と絶望感は、
とても言葉では言い表せないくらい、とても辛かった。

今でもそう思い出します。

朝になって医師から、
「今は大丈夫だから、とにかく一度帰って休みなさい」
と言われました。

いったんは断りましたが、
実家から色々と持ってくる物もあったから
「すぐ戻ってきます」と伝え、ひとまず実家へと戻りました。

タオルやらなんやら必要なものを準備していると、
部屋のすみっこに、やさしくて懐かしいニコニコ笑顔を見つけたのです。

「ひっちゃん」でした。

僕は10数年ぶりに、心を許せる友達に会った気がしました。

その懐かしい笑顔に、押さえていた涙が溢れました。

危機的状況で、ワラにもすがりたい気持とは、
まさしくこんな感覚を言うのでしょう。

僕が唯一、心の弱さをさらせるひっちゃんに、
「助けて!どうかカミさんと子供を助けて!」
と、心の中で叫び続けました。

ひっちゃんは、昔と変わらずニコニコしてました。

次の日、ようやく子供が生まれました。

しばらくは集中看護で、入院が必要ではありますが、
母子ともに命に別状はなく、まさに奇跡的だったと先生も驚いていました。

緊張の糸がやっとほぐれました。

僕は先生とスタッフの方々に御礼を言って、
その後の準備のために、また実家へ戻りました。

カバンに荷物を詰め込んだり、車に運んだりしている中、
ふと思いだし、部屋のすみっこのひっちゃんの方向を見てみました。

すると・・・>>>

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がひっちゃんの居た場所に目をやると、
なぜか、そこにひっちゃんは居なかったのです。

「あれ?ひっちゃんどこやった?」
母に聞くと、母はキョトンとした顔で、
「知らないよ」

しばらく入院だなんだでバタバタしてたから、
どこかに紛れこんじゃったかと思ったけど…。

だけど昨日は居たしなぁ、と不思議に思いました。

家中を探し回ったけど、やはり見つかりませんでした。

僕は、母にひっちゃんに神頼みならぬ、
ぬいぐるみ頼みしたことを話しました。

母が言いました。

「もしかしたら、ひっちゃんが身代わりになってくれたのかもね。
 ほら、昔、あんたがあんなに大切にしていたから…」

病院へ向かう車の中で、僕は久し振りに声を出して泣きました。

「ひっちゃん…ありがとう…ありがとう
 …今までひとりぼっちにさせてごめんね…」

あれから、

ひっちゃんを見ることは二度とありません。

当然カミさんもこの話は知らないし、
人に話したら笑われることでしょう。

馬鹿げてるかもしれないけど、
僕はひっちゃんが助けてくれたと信じています。

そう思わざるをえないのです。

ともかく今は、家族3人で幸せに暮らしていますよ。

それで、娘のニコニコ笑顔を見るたびに、
ひっちゃんのことを思い出して、
胸にこみ上げてくるものがあるんです。

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