僕を救ってくれた人、それは「おっさん」や「鬼」でした

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は中学に入った時、チビだったし風采も上がらないし、
当然のようにイジメの標的になった。

イジメって言っても、筆箱を2階の窓から投げられたり、
ウイルスごっことか、弁当をゴミ箱にダンクされたりとか、
その程度のことだった。

小学校で壮絶なイジメを受けて不登校になった僕からすれば、
「その程度」と言えるくらいのイジメだった。

そのうちイジメには女子も加わるようになって、
担任教師は、関わり合いになりたくないのか、
特に注意することもなく、見て見ぬふりをしていた。

ある日のことだった。

いつもみたいに、休み時間、僕の筆箱サッカーが始まったところで、
僕とは一生縁の無さそうなイケメンが、
イジメグループから筆箱を取り返してくれた。

「おまえら中学生になってこんなことして
 恥ずかしくないんか?」

イケメンのドスの効いた声に、イジメグループは一瞬ひるんだ。

でも皆が見てる手前、イジメグループも引くわけにはいかない。

そうなると殴り合いの喧嘩になるのは明白で、
だから僕は笑いながら言った。

「マジになるなよ、ふざけてるだけだからさぁ」

そしたらイケメンの顔がマジ切れの表情に変わった。

「ヘラヘラせんと嫌なら嫌とはっきり言えや!!
 俺はお前みたいなのが一番嫌いじゃ!!
 こっちこいや!!」

なぜか僕が切れられ、教室の外に連れて行かれた。

人気のない美術室の廊下まで連れて行かれたところで、
僕は、ボコボコにされると思い、ビビリまくっていた。

そしたら、イケメンは掴んでいた手を離して笑った。

「これで教室の奴ら、お前んこと
 俺の舎弟だと思い込んだなwww」

その変わりようにぽかんとしたが、
すぐにあれは僕を助けるための演技だったのだとわかった。

「本当はお前自身がはっきり嫌と言えばいいんだが
 それが出来る奴と出来ない奴がおるけん。
 じゃけん、気にせんと俺のダチになっとけやw」

そいつはサッカー部のエースで、部内でも人望があって、
元不登校の僕とは住む世界の違う人間だった。

スーパー銭湯に行くのが好きで、
学校でそいつはおっさんと呼ばれていた。

その個性あるアダ名と親しみやすさ、
好男子の鏡みたいな性格だから、
とにかく女子にも男子にもモテるやつだった。

僕は例の一件のせいで「おっさんの舎弟」として、
おっさん率いるサッカー部グループとつるむようになった。

舎弟というポジションだから、ジュース買ってこいとか言われるんだけど、
お金を多めに渡されたり、必ずじゃんけんで僕についていく奴を決めたり、
あくまで下っ端キャラごっこを楽しんでいる感じで、

なんていうか、僕はすごく楽しくて嬉しかった。

「パシリポジション」で嬉しいとか、僕も相当マゾだけど、
それからは生活が一変した。

夏祭りやサッカーのイベントにも誘われ、
今までが嘘だったかのように、
充実した中学校生活を送るようになった。

僕が一緒にいると迷惑じゃないかと思って、
最初のうちは誘いを断っていたんだけど、

「お前がいなかったら、誰がリンゴ飴の行列に並ぶんだ」

「サッカー部はバカ揃いだから、お前がいないと
 買い物すらまともに出来ない。いいから早く来い」

とにかく、そんなことを言われて僕涙目www

気付いたら、サッカー部のマネージャーにされていた。

元不登校の僕が、毎日部活に出てた。

しかも男マネージャーで…。

はじめて学校に僕の居場所が出来た。

サッカー部には鬼と呼ばれる顧問がいた。

僕は、鬼顧問が怖くて必死に働いていた。

なんとその鬼顧問が、何もできない僕のことを、
皆の前で評価してくれたのだ。

こんなことは生まれて初めてのことだった。

僕は、嬉しさでも泣きたくなることがあるって経験を、
初めてしたのだった>>>

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顧問からの忘れられない褒め言葉だった。

「お前ら○○を見習え! サッカー部で一番やる気があるぞ!」

皆を叱咤するおかずにされたわけだが、
僕は、恥ずかしすぎて涙目に…。

おっさんが、
「俺がスカウトしてきました!」
と自慢気に言ったら、

「よくやった! 褒美として腹筋50回!」

なんて言われてて、皆笑ってて、
もう、この時間が一生続けばいいと思ってた。

ある日、鬼顧問と僕が廊下を歩いてた時だった。

うちの「見て見ぬふり担任」とばったり会った。

そして、担任は顧問にひと言話しかけた。

「○○をマネージャーにしたのは正解ですね。
 こういうのは早めに社交性を鍛えておかないと
 社会に出てから役に立ちませんからねえ」

悔しかったけど、小学生の時に不登校やらかして、
親の不和の原因になったクズの僕だった。

担任のせりふに言い返す言葉も持ちえなかった。

良くしてくれてる顧問の顔をつぶしたようで、
申し訳なくて消えたくなった。

そしたら、鬼顧問、担任教師に真顔で言った。

「こいつが大人になったら、
 少なくとも、あなたよりかは心が輝いている
 人間になると私は確信しております」

担任、青ざめた顔して、そそくさとその場を去って行った。

鬼顧問、買いかぶりすぎですよ、僕は元不登校ですよ!

心の中でそうつぶやき、それらしい表情をしたら、

鬼顧問から頭叩かれて、

「お前は誰よりも強い」

そんなこと親父にも言われたことがなかった。

なんなんだ?この違いは!?

どうしてみんな、こんなに優しいんだ?

僕の知っている世界は、もっと汚くて醜い世界だったのに。

数十年前、本当の世界に出合うきっかけを作ってくれた、
・・・それは「おっさん」とか「鬼」とか、変な異名を持つ人たちであり、
下手で足の臭いサッカー部員のみんなだったんだ。

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