大学生の頃、図書館で借りた本に、
未投函の暑中見舞いが挟まっていた。
不躾ながら、ハガキの字を見たら、
下手だけど気を入れて書いてるのが分かった。
鉛筆の下書きの上をボールペンでなぞり、その後、
鉛筆書きを消しゴムで消した形跡まで見えたからだ。
僕は遠く離れた親に対し、
電話も便りも滅多にすることはなかった。
自分がそうだったからかもしれない。
この暑中見舞いは、息子さんが遠い田舎の両親に宛てたものじゃないか、
そう直感した。
たまに出す親への便りは、暑中見舞いの形を借りて、
「いつもご無沙汰、ごめんなさい」
のメッセージだったのではないだろうか。
勝手にそう思い込み、
僕は自分の罪滅ぼしの気持も込めて、
この人の代わりに、宛先に送り届けようと思った。
ハガキは、値上げ前のものでそのままは投函できなかった。
それで、封筒に入れ、図書館の本に挟まれていた旨を書き添えて、
本来の宛先に郵送した。
後日、僕宛てに郵送の相手から返事が届いた。
意外な返事に、僕は驚きを隠せなかった>>>
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その返事は、丁寧なお礼状だった。
暑中見舞いの送り主は、僕が直感した通り、
息子さんであることに驚いた。
しかし、本当に驚いたのは、その息子さんが
既にお亡くなりになっていたことだった。
数年前に亡くなった若い息子さんからのハガキで、
届いて本当に嬉しかったと。
行間から、ご両親のこぼす涙がにじみ出るようなお礼状だった。
そして、挟んであった本の題名を教えてほしいという内容だった。
思いがけぬ展開に驚きながら、
借りた本のタイトルを書き添えて返事を送ると、
さらに丁寧なお礼状が届いた。
それから数ヶ月後、小さな図書館の寄贈書のコーナーに、
ハガキが挟まっていた本と同じ作家さんの本がズラリと並んだのだった。