ガサツで自分勝手。
とんでもないことをしでかしても、
自分だけは許されると、どこかでタカをくくっている。
お母さんは生前、言っていた。
「お父さんはあれだね、末っ子の唯一の男の子だったから、
お義母さんに甘やかされたんだよ。
いいかい、人間っていうのはね、窮地に陥ったときに、
誰かがなんとかしてくれると思うタイプか、
自分でなんとかしようと思うタイプか、
二つに分かれるんだよ」
私が小学生のとき、父はいきなり学校にやってきて
勝手にひとり、授業参観。
「せんせ、すんまへんなあ。
今日しか見れまへんさかい、頼みまっさ」
コメディアンのようにふざけた調子。
当然、クラスは騒然となり、いつも私を冷やかす男子は、
「おい、あれ、おまえの父ちゃん、ちゃうんか?」
と私をつつく。
(ああ、恥ずかしい、なんでウチのお父さんはあんなんやろ、
もっとまともな人やったらよかったのに…)
そう思って俯いた。
あれは高校生のときのこと。
バレーボールの全国大会決勝戦で、私は大きなミスをした。
競っていた試合。
私の打った一番大事なサーブは、ネットを越えなかった。
地元の駅に降り立つのが怖かった。
みんなの視線を浴びることを思うと胃が痛かった。
改札を抜けたとき、一番前に、父が立っていた。
父はまったく私の意表をつく姿だった>>>
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父はなんとメガネをかけていた。
ただのメガネではない。
カラフルな糖衣チョコがメガネ型の
ブリスターに入った駄菓子の代物。
輪ゴムで耳にかけている。
「いやあ、○○○(私の名前)、おつかれさん。
恥ずかしいミス、しでかしたもんやなあ」
大きな声で言ったので、そこにいた人、みんなが笑った。
私は頬を真っ赤にして、その場を立ち去った。
(ひどい、なんで傷口に塩を塗りつけるような真似するんやろう。
親子なのに……信じられへん。
なんてひどいお父さんなんやろう!)
川べりまで走って泣いた。
大きな声で泣いた。
悔しかった。
何もかもが悔しくて、泣けた。
その日、家に帰ると、父はベランダで
メガネの駄菓子をプチプチ開けて、チョコを食べていた。
その丸い背中をよく覚えている。
今なら分かる。
お父さんが自分でも恥ずかしい恰好をすることで、娘を守ろうとしてくれたこと、
率先してミスのことに触れることで、周りの揶揄を鎮めてくれたこと。
ただ・・・・・・不器用すぎたよ、お父さん。
今、父が煙になっていくのを眺めている。
真っ青な気持ちのいい天気だ。
ぐんぐん登っていく黒煙の行方を追いながら、
それがやがて「8」の字に見えた。
改札でおどけながら私を待っていた、
あの駄菓子のメガネを思い出した。
出典元:PHP特集 前を向いて生きる!
「ハイエイトチョコ」