夕飯の支度をしていると、
視界の隅で、5歳になる娘の幸恵が、
カレンダーの日付の25日をペンで
丸く囲っているのが見えた。
椅子を土台にし、必死に手を伸ばしながら、
丸を付ける娘の姿を見ながら私は、
「サッちゃん、どうしたの?クリスマスだから?」
と質問をした。
「そう、クリスマス!
だって、パパが帰ってくるんだもん。
サチ、サンタさんにお手紙書かなくちゃ。
ねぇママ、書いたらちゃんとサンタさんに渡してよね」
と何だか忙しそうにしていた。
クリスマスは1週間後。
出張中の父の帰りを娘は待ちわびている。
何度も説明したけれど、
娘は理解できないようだ。
夫は、既に亡くなっている。
半年ほど前に、出張中に事故に遭い、
帰らぬ人となってしまったのだ。
娘は、出張中だから父が家にいないとしか、
理解していない。
「出張」は理解しているが、
「死」ということを理解できないようだ。
私は娘の前で、最愛の夫を失った悲しみを
顔に出さないように気をつけていた。
もしかしたら、それが理由なのかもしれない。
手紙を書き終えた幸恵が私に、
「ママは見ちゃだめだからね」
と言いながら、真面目な顔で手紙を渡した。
私は、
「わかりました。任せてくださいよ」
と言いながら、娘の頭を撫でた。
幸恵がテレビに夢中になっている間に、
手紙の内容を確認し、
プレゼントを買いに行こうと思っていた。
「お父さんと一緒に過ごせますように」
みたいな内容が書かれていないか、
正直、すごく不安だった。
私は、緊張しながら手紙に目を通した>>>
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幸恵の手紙は、私の想像を裏切るものだった。
幸恵の手紙・・・
『サンタさんへ、
さいきん、ママにげんきがないの。
サチがねると、ママいつも、ないているの。
パパがかえれないところに、シュッチョウだから。
パパにもうあえない。
さみしいけど、サチ、がまんする。
でもママは、がまんできない。
クリスマスだけでも、
ママがパパにあえますように、
おねがいします。
パパがいるときは、サチねたふりします』
私は、ヤカンが沸騰する音で我に返った。
その音で、幸恵が私を見て、
「ママ、どうしたの?
何で泣いてるの?お腹いたいの?」
と言いながら近寄ってきた。
私は、すばやく涙を拭き、
かぶりを振って、笑顔をつくった。
「今、サッちゃんが好きな玉ねぎを切っていたの」
「えっ?ママ意地悪ね~、
サチが玉ねぎ嫌いなの知ってるじゃない!」
ほっぺをふくらませた幸恵を抱きしめながら、
私は思った。
そうだ。泣いてる場合じゃない。
娘の方が私の寂しさを気遣っているのだ。
これからは、どんなことがあっても、
娘の悲しさ、寂しさを、私が受け止めてあげる。
私が娘を包み込まなくて、誰がそうする。
父親の死は、時間をかけて理解させよう。
娘の手紙は、私にひとつの覚悟を与えてくれたようです。