98年の正月だった。
「よくぞこれだけ俺の周りでポンコラポンコラ
起きるなってありましたもの。
極め付けは、オーストラリアでパコーンとやられましたよね」
ゴールドコーストを舞台にした詐欺事件である。
「(被害額)35億円だから。
ギブアップですよね。
普通、もう立ち上がれないじゃないですか」
しかも友人と側近の裏切りである。
「髪の毛抜けながら、過呼吸の手前ぐらいまで、
精神的にそりゃ、なるじゃないですか。
はめたヤツが許せない」
身がよじれるような憤り。
苦い酒。
「自分に対しても悔しかったし」
深い自責。
世間の好奇の目が肌に突き刺さるようで、
妻と子供3人を連れ、米国に移住した。
自壊寸前の矢沢の心に、妻のひと言がしみた。
あなた知ってる?>>>
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人を呪わば穴2つって。
「人を恨んでばかりいても、解決しないってことよ」
自分も2つ目の穴に落ちるよ。
陥れた連中のことは忘れて、借金は背負って、
返してということを彼女は言いたかったんじゃないの」
苦言にも耳を傾けた。
あなたは裸の王様そのものよ。
なぜ広島のことでくだ巻くの。
過去がどうとか言うのはもう十分じゃない。
それをハングリー精神にして、ここまで来たんだし。
全部許してあげて。
それが自分のためだから。
人を許す?
俺のため?
歯噛みしながら、同じ自問自答を繰り返すことになった。
怒りのエネルギーは身を焦がすだけだ。
矢沢は6,7年で借金を完済した。
1人で35億円を、である。
「あの事件のおかげで、今の自分があると思います。
本当は金が欲しかったわけじゃないってことも分かったのよ。
幸せとは何ぞや。
謎が解けたんですよ。
俺には音楽がある。
俺にはコレがある!と思えることが、
(すなわち)幸せなんですよ」