アメリカのオレゴン州、大学の女子ソフトボールで起きた話です。
両チームとも初めての決勝戦という大事な試合で、
サラという選手がホームランを打ちました。
ところが1塁をまわったところで彼女に悲劇が起こります。
4年間続けてきたソフトボール。
チームも9連勝中で、彼女もヒットを打つなど活躍していましたが、
ホームランはまだ一度も打ったことがありませんでした。
彼女はかなり小さい体格なので、
この場面でホームランを打つなんて予想外のことだったのです。
それだけにこのホームランは、卒業前の最後の舞台で
彼女がヒーローになれた瞬間だったわけです。
ところが興奮いっぱいに走る彼女は、1塁を踏み外してしまいました。
気づいた彼女は1塁に戻ります。
しかし、慌てて身体をねじったせいでしょうか、ひざを痛めてしまい、
1塁に戻る途中で崩れるように倒れてしまいます。
彼女はなんとか走ろうとしますが、もう1塁にもたどり着けません。
もしチームメートやコーチが助けると、ホームランは無効となります。
すでに塁にいたランナーはホームに帰ってきています。
このホームランを有効にするには、
彼女一人の力でホームベースに帰らなくてはいけないのです。
そのときのことをコーチはこう説明しています。
「4年間で初めてのホームラン、
それを彼女から取り上げたくない気持ちが心によぎりました。
それと同時に彼女のことが心配でした」
彼女に直接手を差し伸べてしまえばアウトになるため、
審判は次のように提案しました。
「ルール上、残された選択肢は彼女を別の選手と交代させ、
3ランホームランではなく、2点タイムリーヒットとして記録する」
コーチは「わかりました」と告げました。
すると、その時のことです。
思わぬ申し出、思わぬハプニングが起きます>>>
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審判の提案に、コーチが了解の返事をしたときです。
横から「私たちが彼女を運んでベースにタッチさせてもいいでしょうか」
という声がかかったのです。
見ると相手チームのホルツマン選手でした。
同じくラストシーズンとして4年生の彼女自身も、
シーズンが終わればひざの手術をすることになっていました。
彼女は試合の度にひざが痛みましたが、
彼女にとっても最後のシーズンを欠場したくないため、
手術を先延ばしにしていたのです。
そんな彼女が自分の最後の試合で、
4年間敵チームの選手として、知っているだけの相手を助けると申し出たのです。
ホルツマンともう一人の選手の2人で彼女を持ち上げ、
ベースをゆっくりと回りました。
確実に彼女をベースに踏ませながら…。
靱帯の損傷と思われる苦痛に耐えながら、サラはベースを踏んでいきます。
あとでホルツマンはこう伝えています。
「正直言うと、私が同じ立場でも誰かがそうしてくれたらうれしいと思う。
彼女にとって最後のシーズンのホームランよ。
私はソフトボール経験が長いから、彼女に触れることができるのを知ってたの。
私のアイデアだったけれど、きっと誰でも同じことをしたと思うわ。」
こうなると、どちらが勝ったかというのは重要じゃなくなるような気がします。
本当のスポーツマンシップとは何か。
3人がホームベースにたどり着いたときの、
球場の鳴り止まぬ歓声と拍手が聞こえるかのようです。