結婚記念日の予約席@ロスのレストラン

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40数年前のことです。

ある日本人の旅行者が、ロサンゼルスのあるレストランで見たお話しです。

Kさんは、日系人の友人とともに、
眼下に海を見下ろす瀟洒(しょうしゃ)なレストランで夕食をとりました。

すぐに目についたのが、花をいっぱい飾って、
二本の特別に大きなローソクを点した窓辺のテーブルでした。

いうまでもなく予約席です。

どんな人たちが、この素敵なテーブルにつくのだろう、
そして何を祝うのだろうと、Kさんは興味をそそられました。

Kさんたちは、ゆっくり食事をとりましたが、予約席には誰も現われません。

ローソクはすっかり短くなりました。

よく見渡すと、マネージャーと給仕長は通りかかるたびに立ち止まって、
情のこもった眼差しで、そこだけポツンと空いているテーブルを、
じっと眺めているのです。

それがいかにも優しく、それでいて妙にもの哀しそうでしたので、
Kさんは、マネージャーに聞かずにはいられませんでした。

すると、哀しいいわれがあったのです>>>

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ネージャーが教えてくれました。

5年前のその日、結婚式を挙げた若夫婦が、このテーブルでお祝いの食事をしました。

船の乗組員のご夫婦でした。

その日も、今夜と同じように、テーブルには花が飾られ、
大きな二本のローソクが点っていました。

次の年の記念日にも、やはり二人でこの予約席に座りました。

ところが、三年目には5ドルの為替と電報だけが来たそうです。

奥さんは乳がんで亡くなられ、自分は航海中で来られない。

しかし、あのテーブルは、自分たちのために予約済みにしておいてくれないか、
という文面でした。

マネージャーたちは、びっくり驚いたそうです。

それから毎年、決まって、この記念日には為替と電報が送られてきました。

去年はヨコハマ、今年はロンドンからだったそうです。

船乗りのこのお客様の気持を汲み取り、
レストランでは、結婚式の日と同じように毎年テーブルを飾り、
予約席として、その方への想いを馳せているとのことでした。

Kさんは、マネージャーの話を聞き、深く心を打たれました。

同時にマネージャーの心遣いを嬉しく思いました。

卓上に飾られた花だけでも5ドル以上のものでしたから。

さらに話を聞き進めると、この5ドルの為替は、
そのまま、この船乗りの方の奥さんが眠る教会に、
年々献金されているとのことでした。

このレストランの眺望の良さに加え、人の心の美しさに触れたKさんは、
まるで一編の詩の朗読を聴くような思いに浸ったそうです。

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