顔を合わせるたびに父から伝わってくる私への不満が嫌になり、
足が遠のいていたのだ。
確かに父が望んでいたようには進学も就職もできなかった。
直接非難こそされないが、歓迎もされない。
そんな微妙な距離のまま、時間が過ぎていった。
久しぶりに会った父から言われた第一声は、
「寒いけん、コタツに入れ」だった。
いきなり缶ビールを渡された。
食卓には私の好きなイカの刺身が用意されている。
「心臓は大丈夫か?」
おもむろに父が言った。
心臓?
何のことだろうか…>>>
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遠い記憶をたどっていくと、
あのときのことだとわかった。
高校生のとき、心電図でたった一度だけ再検査になったことがあったのだ。
再検査の結果は何も問題なく、すっかり忘れていた。
「忘れとった。何ともない」
「そうか。お前が元気ならよかたい」
父が穏やかに言った。
込み上げてきそうになる涙をビールと一緒に流し込む。
父のことを分かっていなかったのは私の方だった。
父はいつも私のことを心配してくれていたのだ。
父と会わなかった五年は、
これから少しずつ取り戻す。
そう誓った。
出典:PHP特集「前向きがいちばん!」より
大阪市 エリーさん