いわゆる「家出」である。
彼女のクラスメイトに聞いて回り、何とか居場所を突き止め、
連れ戻しに行くと、娘は別人のようないでたちになっていた。
俗に言う「ヤンキー」と呼ばれる若者が好んで着る類のジャージ姿で、
頭は金髪、耳にはピアス、顔は派手なメイクをしている。
「そんなはずはない。何かの間違いだ」
悪い夢だと思いたいが、悲しくも現実である。
どうしてこんなことになったのか。
やはり私がいけなかったのか。
寂しい思いをさせていたのは分かっていた。
娘が小学三年生の時、私は離婚し、
娘と二人の暮らしが始まった。
兄二人は父親と暮らすことになったからだ。
仕事からの帰宅時間は遅くなりがちで、
常に娘のことは気がかりだった。
それでも、塾に行かせてやりたい、可愛いい洋服も着せてやりたい。
私はもっと収入を得なければと焦った。
気がつけば、食事を作ることもおろそかになり、
娘の話も上の空になっていた。
そんな私に、彼女はいつも
「寂しくないよ、お母さんお仕事頑張ってね」
と健気に言った。
末っ子で年の離れた兄二人に守られてきた彼女が、
たった一人で私の帰りを待つのは寂しくないはずがなかった。
「仕方がない。母子家庭なんだから。
娘も分かってくれている」
私は自分にそう言い聞かせた。
きっと我慢して良い子を演じてきた彼女の糸が、
プツリと切れてしまったのだと思う。
突然、私の手元からスーッと離れてしまった。
いなくなれば捜しだし、連れ戻す。
隙をみてはまたいなくなるの繰り返し。
警察や学校には何度も足を運んだ。
ほとほと疲れ果てた時、中学時代の同級生から声がかかった。
恩師を囲んで会食をするので、参加しないかという誘いだった。
恩師は非行に走った生徒たちの更生に、
長年関わってこられた方だったので、
私の悩みを知っていた友人が、
相談してみたらどうかと気遣ってくれたのだった。
藁にもすがる思いの私は、即答で
「参加させて」とお願いした。
「娘が何度も家出します。
連れて帰って言い聞かせると『もう出て行かない』
と約束するのに、その日の夜にでも隙があれば
いなくなります。
私のことを平気でダマすんです。
でも娘のことを信じたい気持ちもあって、
『今度こそ大丈夫。信じよう』と思うのに、
やっぱり裏切られます。
どうしたらいいか分かりません」
途方に暮れる私に、先生はこんな話をして下さった>>>
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教室の中で、先生と更生すると約束しても、
教室を出た途端、その生徒たちは元に戻ってしまう。
何度も何度も裏切られた気持ちになるけど、
それでもまた、信じてみるのだと。
それを繰り返しているうちに、
次第に生徒たちの態度が変わっていくのだそうだ。
「裏切られても裏切られても、また信じてやるしかないのだぞ。
それが親の、お前の仕事なんだよ」
先生のこの言葉は、私の胸に深く深く刻み込まれた。
挫けそうなとき、いつもこの言葉が私を支えた。
いつ終わるのか、先の見えない娘との格闘を潜り抜けてこられたのは、
先生からのこの一言があったおかげだ。
今はあの苦しみが嘘のように、優しい娘に戻ってくれた。
一人で暮らす私を心配して、時折、メールをくれる。
困ったことがあれば頼りにもしてくれる。
愚痴を言いたい時には電話をかけてくる。
仲良し母娘に戻ることができた。
「生きてる?」と娘からのメール。
「生きてる(笑)」と返信して、喜びに浸る私なのである。
出典:PHP特集 こころ穏やかな生き方
「娘を信じることこそ親の仕事」を参考にしています