3.11 その時、ディズニーランドで起きたこと

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2011年3月11日、東日本大震災の日。

夢の国「ディズニーランド」で起きたことをご紹介します。

楽しいひと時を過ごしていた人たちは、
突然襲った激しい揺れに驚きました。

「これもアトラクションのひとつか?」
と思った人もいたかもしれません。

しかし、おさまらない揺れに、
ようやく自分たちが大地震に見舞われたことが分かりました。

そう覚ったら、人は大きく動揺するものです。

泣き叫ぶ子供たち。

その場から逃げようと無我夢中になる人々。

広い園内が大パニックに陥ろうとしていたその時です。

場内に男性のアナウンスが流れました。

震災発生から約40秒が経過していました。

「皆さまにお知らせいたします。
 只今、地震がありました。
 建物のそばにいらっしゃる方は、
 建物から離れて、広いところでお待ちください」

「地震と園外の状況は、確認が取れ次第、
 ゲストの方々にお知らせします」

そして、沈着冷静に行動するキャストたち。

「頭を守ってしゃがんでください」

「どうぞその場から動かず、お座りになってください」

そう声をかけながら、不安に怯える来園者に駆け寄り、
心身のケアを行います。

これが、70,000人もの来園者を一切混乱させず、
無事に避難誘導した東京ディズニーリゾートの
キャストたちの活躍の始まりでした。

東京ディズニーランドでは、
「震度6、来場者10万人」を想定した防災訓練を、
年間、実に180日行っています。

加えて、5万人が3~4日過ごせるだけの
食糧を備蓄しています。

万が一の事態が起こり、来園者が怪我をしたり、
最悪の場合、死という状況に至ったりすれば、
「夢の国」のブランドが嘘になります。

想定外を想定内にしておく備え。

それがあってこそ、日常を忘れて、
虚構世界に浸ってもらうことが可能になります。

それが本当の安心・安全。

「すべてはゲストのため」。

その哲学がスタッフ一人一人に浸透していました。

午後3時22分には、社長をトップとする
「地震対策本部」が設置されました。

責任と権限のピラミッド体系が構成され、
これにより、現場の判断と指揮命令がスムーズに行き来します。

こんな時、現場レベルで判断できない重要事項が発生したら、
普通なら、対策本部が意思決定する間、延々と時間がかかります。

ここでは、全従業員の90%を占めるアルバイト・スタッフが、
各々の立場で活躍を見せました。

例えば、こんな感じです。

あるスタッフは、店頭のぬいぐるみ「ダッフィー」を持ち出し、
「これで頭をお守りください」と差し出しました。

防災ずきん代わりに使用してもらうためです。

別のスタッフは、店頭販売の
クッキーやチョコレートを無料で配布しました。

「必ず皆さまのお手元に届けますので、
 その場に座ってお待ちください」
と、混乱が起きないように声をかけながら。

これらの行動は、誰からか命令されたものではありませんでした。

独自に作った「地震対策基本計画」に基づく防災訓練で、
予めトレーニングされていた行為でした。

使えそうなものは、何でも使用してよく、
ゲストの安全確保のためには、
たとえ店舗の商品であっても、
率先して提供してよい、とされているのです。

それを受け、各スタッフが自分なりに動いた結果でした。

夕方、ディズニーランドには、雨が降り出し、
気温10度までに冷え込んできました。

その際も、スタッフたちは自主的に行動しました。

お土産用のビニール袋や青いゴミ袋を雨がっぱ用に提供。

それでも足りなかったため、
段ボールまで取り出しました。

ゴミが散乱して園の美観が損なわれることは、
「夢の国」にあってはならないことです。

普段は、食料の持参を禁止するほど、
景観維持を徹底しています。

なのに、美観を汚すことしかならない
段ボールを持ち出したのです。

スタッフたちが、いかに来園者の安全を
第一に考えていたかが分かります。

スタッフだけではありません。

「夢の国」を支えるキャラクターたちも大活躍しました。

地震発生後、パレード中だったウエストランドでは、
パレードが緊急停止。

自分で車から降りられない状態に。

しかし、ミニーや妖精の外国人たちは、
救出されるまでの数十分間、
来園者たちに手を振り続けました。

スタッフ、キャラクターの冷静かつ愛情あふれる行動が、
不安の絶頂にある人々を勇気づけ、慰めました。

夜が訪れ、ここで大きな問題が待ち受けています。

帰宅できない2万人の来園者が、
ここで一夜を過ごさなければいけません。

まだ交通機関は不通状態だから、
そんな状態で危険な園外にお客様を出すわけにはいきません。

園内で十分に休んでもらうために、
早く来園者を建物内に入れたいところです。

そのためには、建物の安全確認が必要でした。

安全点検は、先にディズニーシーが済んでいたので、
そちらにお客様を移動させる方策をとりました。

通常、「ランド」と「シー」の行き来は、
ディズニーリゾートラインという乗り物を使用します。

しかし、当然、電気の供給が止まっているため、
この乗り物を動かすことが出来ません。

一般道路を歩いての移動は、大きく回り道になるし、
その上、この浦安地域では液状化現象を起こしており、危険です。

八方塞がりではありますが、
ただ一つ方法がありました。

ただし、それはディズニー開園以来、
28年間守ってきたことを破ることになる方法でした>>>

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の方法とは、従業員専用のバックヤードと呼ばれる
通路を解放することです。

これにより、単距離でかつ安全にディズニーシーへと
来園者を移動させることができます。

そこは、配線や基盤がむき出しになった工場のような空間です。

「夢の国」を支える裏側を見せることは、
ディズニー・スタッフにとって、大変心の痛むことです。

しかしながら、こんな非常事態の局面にあって、
スタッフたちは、来園者へのサプライズを提供したのです。

それは裏側を見せないための、苦肉の策ではありましたが、
結局、一石二鳥のサプライズとなったのでした。

スタッフが開けた扉の先に広がる光景に、
来園者は目を奪われました。

何百人ものスタッフが、ペンライトを片手に両サイドに並び、
光の道を作っていたのです。

二つの「夢の国」をつなぐために解放された無機質空間が、
突如、感動的な演出により、夢の通路へと変貌したのです。

来園者の安全を最大限に確保しつつ、
「夢の国」のイメージも演出する。

ディズニーが見せた、プロがなせる技でした。

支給された毛布を使用し、無事に2万人の方々は夜を過ごしました。

非常食の温かい「ひじきご飯」もふるまわれました。

こうして、東京ディズニーランドでの
長い一日が終わったのです。

その後、4月15日まで東京ディズニーランドは閉園しました。

再開時には、ミッキーやミニーとの再会を
待ちわびたファン1万人が列を成しました。

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