「あのおばあさんの身寄りは?」
回診の後、N先生が看護師の私に尋ねられたのは、
Kさんが入院してから2カ月を迎えようとしている頃でした。
「民生委員さんのお話では、富山の方へ娘さんが嫁いでいるとのことですが」
N先生は、しばらく黙り込み私に言いました。
「そう。すまないけど、君、これで果物でも買って差し上げてくれませんか」
「先生、病院側から患者さんに特別何かを供与するのは、
感心できることではないと思いますが…」
「うん、分かってる。だけど僕にも年老いた母がいます。
病院側じゃなく、僕が差し上げたいんだ」
N先生はそう言って、私に三枚の千円札を手渡されました。
そうして「こうしようじゃないか」と私に耳打ちしました>>>
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私はその日の帰り、夏用のサッカーのパジャマとメロン1個を求め、
「小包み」にしました。そして、次の日、病室へ入るなり、
「Kさん、Kさん、娘さんから宅急便ですよ。開けてみましょうか」
と声をかけました。
おばあさんの顔がパッと明るくなりました。
「わあ、ステキなパジャマ、それに美味しそうなメロンも・・・」
私からパジャマを受け取ると、細い両腕にだきしめ、
「あの子、元気だったんですねぇ……」
とつぶやいて、目を閉じました。
うっすらとうれし涙を浮かべながら……。
「N先生、ありがとう」
私は心の中でつぶやきました。