”一人で上等!”のおじさんライダー

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日、自動二輪免許に合格しました。

小中高と典型的ないじめられっ子で、
高2の後半から登校拒否の引きこもりになりました。

それでも、月数回の保健室登校や、
別室での試験を受けたりして、
何とか高校卒業まではこぎつけました。

ただ、卒業するのでやっとだったので、
当然ながら受験も就職も、何も対策しておらず、
またそれに向かうやる気も一向に湧かず、
卒業してからは、ずっと部屋に引きこもっていました。

両親に心配と負担をかけていることは、
分かっているつもりでした。

しかし、今まで家の外で
まともな扱いを受けたことのない身としては、
これから先、もっと厳しくなる環境で、
自分なんかがやっていける訳がない…

イジメを受ける何らかの要素を、
きっと自分は持っている…

でもそれが何かは分からない…

どうすればいいかも分からない…

でも、このままではどうしようもない…

『どうしよう、どうしよう』と、
毎日絶望と苦悩で一杯でした。

そんな引きこもりが1年ほど続き、
僕の中で何かが吹っ切れました。

もう死のうと…

自室にあった現金をかき集め、
両親に何も言わず、気づかれないように、
深夜に家を出ました。

ずっと歩いて歩いて、
踏切で始発が動いていることに気づいて、
近くの駅から電車に乗りました。

出来るだけ遠くを目指しているうちに、
ある場所を思い出して、そこを目的地にしました。

何度か乗り換えて終点に着いた頃には、
もう夕方に差し掛かっていました。

駅からしばらく歩き、とある岬に着きました。

観光地としても自殺の名所としても、わりと有名な場所です。

眼下を見下ろすと「なるほど、これは助かるまい」と、
冷静に納得しました。

もう少し奥がいいかと思い、先に進もうとすると、
いきなり声をかけられました。

「やあ兄さん、地元の人かい?」

振り返ると、おじさんと言うには微妙に若い
おじさんがいました。

「はあ、一応県内ですが……」

「へ~、どの辺から来たの?」

「あ、○○市の方です…」

「ふ~ん、ごめん、俺九州の人間だから、
 どの辺か分かんないや」

「……」

聞いといてなんだそれは、と思いつつ、
あまり関わり合うと、色々と面倒になりそうなので、
「それじゃ」と無視して進もうとすると、

「兄さん、生きるのは辛いかい?」

ビックリして振り返ると、

「そんなカッコで一人、虚ろな顔でウロウロしてるから、
 カマかけてみたんだが…」

むしろ、その予感が当たったことに
驚いた風なおじさんの表情でした。

この時は春先とは言え、まだそこそこ寒く、
GパンにTシャツの上に1枚羽織ってるだけの、
部屋からそのまま出てきたような格好でした。

まぁそのまま出てきたんですけど…

「とりあえず、寒いだろ。
 コーヒーでも飲もうや」

そう言うと、こちらの返事も待たずに
歩き出してしまいました。

こちらとしては、ついていく義理は
なかったんですが、

「どうした、コーヒーくらいおごっちゃるけん」

と言われ、人と話して緊張の糸が切れたのか、
それまで何とも感じてなかったのに、
急に寒くなってきました。

それで、どういう訳か分からないけど、
なぜかおじさんの後ろに従いました。

駐車場の自販機で、ホットコーヒーを
礼を言って受け取り、一口すすりました。

じんわりと温かかった。

「まー、これでも色々あってね。
 俺もそこそこ惨めな人生を
 歩んでるんだろうと思うよ。

 正直、今の兄さんを止める資格は
 ないだろうね。
 俺も人生に見切りをつけた時はあったし…

 ここまで来たんだ。
 生半可な覚悟じゃないだろう。

 兄さんがどうしてもと言うなら、
 俺は力づくで止めたりはしない。
 知らぬ顔して、そのままアレで走り去るよ」

顎でしゃくった先には、
真っ赤なバイクが止まっていました。

僕は何となしに「バイク…」と呟いていました。

「そう、バイク。あれはいいぞ。
 生きるにも死ぬにも持ってこいだ」

「はぁ…」

「そういや、兄さんどうやって来たの?」

「歩きで」

「どこから?」

「駅から」

「何で?」

「それは…」

と、こんな感じで、誘導尋問のように
だんだんと古い話までほじくり返されて、
いじめられて、引きこもって、
進退窮まったどうしようもないクズ、
という所まで話してしまいました。

「人から受け入れてもらえない、そんな僕が
 これからどうして生きていけるのか…」

いろんなものを吐き出した僕に
おじさんは、慰めもせず、励ましたりもせず、
その時の僕にふさわしい会話をしてくれました。

おじさんの話です>>>

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~ん…兄さんさ、バイク乗れば?」

「は?」

「バイクはいいぞ。
 整備と燃料を怠らなければ文句言わない。
 こんな俺でも受け入れてくれる。

 それだけじゃないぞ。
 俺一人じゃ行けないところまで連れてってくれる。

 俺はアイツを、そこらの人間以上に大事に思ってる」

「バイクをですか?」

「バイクをだよ。他人なんかクソ食らえだ。

 受け入れられないならさ、別にいいやん。
 一人で上等!!

 バイクは一人で乗るものだからちょうど良い」

この全くの赤の他人から
何の根拠もなく、でも自信満々に
「一人で上等!」と言い切られたことに、
僕はすごく衝撃を受けました。

「一人で生きていくのが辛いなら、難しいなら、
 なおのことバイクに乗れ。

 バイクは決して一人にしない。
 乗り手が見放すまで、
 健気に応え続けてくれるから。

 一人じゃ立てないもの同士、
 仲良く支え合っていけるから…」

僕は人前だと言うのに、
ボロボロ泣きだしてしまっていました。

「こんな僕でも乗れるバイクありますかね…」

「乗れるバイクじゃない。
 兄さんが乗りたいバイクが
 絶対にあるもんだ」

辺りはすっかり暗くなって、
僕が落ち着くまで、おじさんは
近くも遠くもない所で、じっと立ってるだけでした。

駅まで戻ると、
幸い数本の電車が残っていました。

ついて来てくれたおじさんに
お礼と質問をしました。

「他人なんかクソ食らえなのに、
 どうして僕に声をかけたんですか?」

おじさんはニヤッと笑って、

「だって兄さんはバイクに乗るんだろう?
 だったら仲間だからな!

 バイクに乗ってる時は限りなく一人だ。
 でもバイクに乗ってるヤツは一人じゃない。
 だから俺も一人じゃない!」

「みんな仲間なんですか?」

「そこまでハッキリしたものでもないし、
 皆が皆そうでもないけどね」

「バイク乗ってる人は、
 みんなおじさんみたいな感じなんですか?」

「さ~、どうだろうね…
 それはこれから兄さんが自分で知って、感じていくことだ。

 約束だ。免許を取ってバイクに乗れ。
 そしたらいつかどこかで、きっとまた会えるから。

 バイクで動くには日本は狭すぎる。
 こんだけ狭ければ、
 きっとどこかの道でまた会えるから」

電車の到着を知らせるベルが鳴り、
僕は電車に駆け込みました。

おじさんはピースで見送ってくれました。
初めてもらったピースサインでした。

電車が走り出して間もなく、
いつの間にかおじさんが並走していました。

おじさんはいつまでも僕に向かって、
親指を立て続け、
僕はおじさんが見えなくなるまで、
ずっと窓に額を押し付けていました。

主要駅まで戻って、家に電話したら、
すごく心配したと、迎えにいくから待ってろと言われました。

家に着いて、両親にこれまでのことを謝り、
バイクに乗りたいと伝えました。

二人ともビックリしてましたが、
「お前がやりたいことを満足いくまでやりなさい」
と言ってくれました。

教習所に通い出し、外に出るようになって、
「このままどうにかなりそうかも」
と思えるようになりました。

学校ではあんなに辛かった周囲の視線が
そんなに感じなくなりました。

いうほど人は僕を見ていなんだなって…

今はとりあえず大学に行ってみようと
1年遅れで勉強しています。

自分も外に出したことで
少しすっきりしたような感じがします。

まだ肝心のバイクを買ってないのですが、
とりあえず、その資格を満たしたということで、
これで僕もおじさんの仲間入り出来たのかなと
思っています。

風を切り、風になって見えてくる世界、
それが今の僕の大きな夢になりました。

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