ある病院に、
寝たきりで首も動かせない男性が、
病室に運ばれました。
その病室には、もうひとりの患者が
窓際のベッドに横たわっていました。
お互いに親しくなると、
窓際の患者は窓から外を眺めて、
外の世界について詳しい話をし出しました。
「今日はいい天気ですよー。
青空にぽっかり雲が浮かんでいます。
向かいにある公園の桜が咲き始めたところですよ」
別の日には、
「今日は風が強い日ですから、木の葉が揺れて、
まるでダンスを踊っているようですよー」
などと寝たきりで首さえ動かせない彼に、
語って聞かせてあげたのです。
彼は窓際の男性が語るその光景を想像することで、
毎日毎日、心が慰められました。
そして、自分も外の世界が見えるように、
早く病気を治そうと思うのでした。
しばらくして、窓際の男性は、
退院することになりました。
もう一人の男性は、少し寂しいながらも
喜ぶ気持も湧いてきました。
「そうか、彼が居なくなったら、
これで自分が外の世界を見ることができる」
これからは、自分が窓の外を見て、
新入りの患者に話して聞かせてやろう」
看護師に、ベッドを窓際に移すように頼むと、
すぐに聞き入れてくれました。
心躍らせて、窓の外に目をやった彼は、
愕然としたのです>>>
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窓はコンクリートの壁に面しており、
外の世界など何も見えなかったのです。
それから彼は考えます。
あの窓際の男性は、
いったい何を見ていたのでしょう。
彼の目が見ていたものは、灰色の壁でした。
しかし、想像の力で、
その向こう側にあるものを見ようとしていたのです。
そして、ただ天井を見ることしかできず、
いつも辛そうにしているルームメイトのために、
自分の思い描いた壁の向こうの世界を
話して聞かせてくれていたのです。