別れても、子に夫の悪口を言わなかった奥さん

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ながらの落語には、とてもいいお話があります。

本日は、そのうちのひとつ『子別れ(子は鎹)』のご紹介をさせてください。

場面は、とある長屋から始まります。

腕がいいが酒癖が悪く、あまり働かない大工の熊さん。

その日も、数日ぶりにベロベロになって帰ってきて、
戻ってくるなり訳のわからない言い訳ばかり。

おかみさんのお光が黙って聞いているものだから、
だんだん図に乗って、こともあろうに女郎のノロケ話まで始めてしまいました。

これでかみさんも堪忍袋の緒が切れ、壮絶な夫婦げんかの末、
「もう愛想もこそも尽き果てた」とせがれの亀坊を連れて家を出てしまいます。

その後、熊さんは年季が明けたなじみの女郎を家に引き入れてしまいます。

しかし…、昔の人はうまいことを言ったものです。

『手に取るな やはり野に置け 蓮華草(れんげそう)』

吉原(なか)にいたときは美女に見えましたが、
化粧を落とすと、まるで化け物みたいな顔に様変わり。

おまけに一切の家事はやらず、朝からお酒を飲んで寝てばかり…という、
化け猫みたいな女だったのです。

唖然となった熊さんは、女をたたき出そうと考えますが、
その前に女のほうから「こんな所はイヤ」と男をつくって出て行きました。

その日以来、熊さんは断酒をし、一生懸命になって働き、
大工として立派に身を持ち直します。

一人になって、初めて女房の有難さや子供の愛しさに気づきますが、
今ではもう遅いと後悔する日々。

ある日、仕事先の番頭さんと一緒に、仕事で使う木材を選定するために、
木場に行く途中で、出て行った子供の亀坊とばったり会います。

番頭さんに時間をもらい、久方ぶりの父子の再会に時を忘れます。

今では持ち直した、父親を見てびっくりする亀。

出て行った女房のお光のことを遠まわしに聞く熊さんに、

「おっかさんは、今でも独り身だよ」と。

熊さんの本当に聞きたいことを子供の亀に言われてしまいました。

お光は近所の仕立て物をしながら、
貧しいながらも女の身一つで亀を育てているらしい。

さらにお光は今でも、亀坊にはこんな風に言い聞かせていたのです。

「お前のお父さんは、本当はいい人で、お酒があの人をダメにしているんだ」

別れた父親の悪口は言ってないことに、熊さん愕然とし、涙がこぼれます。

熊さんは、亀坊に五十銭の小遣いを渡し、
「明日、鰻をご馳走してやる」と約束し、
「俺と会った事はお光には内緒にしろ」と告げて別れます。

家に帰った亀坊は、しかしながら、もらった五十銭を母親に見つかり、
厳しい詰問を受けることになりました。

「親として、その人にお礼を言わなければならない」と諭す母親に、
父との約束を守ろうと必死にごまかす亀坊です。

母のお光は何度も「誰にもらったのか?」と、厳しく問いただします。

さて、このやりとりの果てはどうなりますか?>>>

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まりに意固地な亀にお光は、金槌を振り上げました。

その金槌は、お光が家を出るとき、夫の形見として持ってきたものでした。

「おまえにだけは、ひもじい思いをさせまいとがんばってきたのに…なんで?
 人様のお金に手を出したんだよ!
 貧乏だからってそんなことをするような育て方はしてないよ! 」

「これは、お父さんの金槌だよ! お父さんが叩くんだよ! 」

と泣きながら、怒るお光でした。

お光の迫力に亀は父親に会ったことを泣きながら白状してしまいました。

ダメ亭主が真面目になったことを知り、うれしさを隠しきれないお光です。

でも、今さら、もとの鞘に戻るのもはばかれるお光。

翌日亀坊におめかしをさせ、送り出してやります。

お光自身も、いても立ってもいられず自分も身なりを整え、
後から鰻屋の店先へ向かいました。

偶然を装い、鰻屋へ出かけ亀を呼び出し、

そして熊さんと対面することになりました。

二人とももじもじするだけで、何も言えません。

「お光…さん」

「お久しぶりでございます」

「本当だな」

相撲の取り組みのように見詰め合ったまま、お互いは動こうとしません。

しびれを切らした亀坊が言いました。

「もう一度一緒に暮らそう…そういいたいんでしょ?仲直りしておくれよ」

それがきっかけで、ようやく二人は話し出します。

「昔から、『子は鎹(かすがい)』と言うが本当だな」

「えぇ」

しみじみとなる夫婦に、横で見ていた亀がひと言こう言いました。

「『子は鎹(かすがい)』…か。

 道理で、おいらの事、トンカチで打つって言ったんだ」

参考:ウィキペディア「子別れ」 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%90%E5%88%A5%E3%82%8C

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