自分でも理由は分からないが、
気がつけば、仕事のやる気を失くして会社を無断欠勤していた。
それが数日続いたある日の夜、上司がアパートを訪ねてきた。
コワモテの、よくヤクザに間違えられる風体の上司だ。
最後通告かな、仕方ないだろうな、と思いつつ、
上司の行きつけらしいショットバーに連れて行かれた。
会社に出てこない僕のことを気にかけてくれたんだろうか。
怖い顔だけど、お酒飲みながら、その目を見ると優しい眼差しに気づいた。
僕は、その目に惑わされたのだろうか、いろいろ自分の正直な気持を吐露した。
なぜか、やる気が出ない、出勤しようにも会社に向かう一歩が踏み込めない、
そんなことを正直に話した。
上司から、最後通告を突きつけられる前に、僕は先手を打った。
このままでは、会社に迷惑かけるばかり、
いっそ辞めようと悩んでいることも話した。
それまでずっと聞き役だった上司は、膝を組み直し、
正面から僕に視線を合わせて言った。
意外な言葉が帰ってきたのだ>>>
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コワモテ上司の話……。
人間は、自分で思ってるほど安定してるわけじゃない。
自分で思ってるよりも、ギリギリのバランスで生きてるんだよ。
走れば走るほど、それだけバランスが崩れやすくなる。
そうすると周りが見えなくなる。
少しだけ間が悪かったり、少しだけ考えが及ばなかったり。
身体の痛みや疲労は分かっても、
精神の痛みや疲れは分かりづらい。
他人のことならなおさらだが、自分のことは我慢してしまう。
お前は今、少し心が疲れてるだけだ。
治るまで、ゆっくり休め。
しばらくして治った時、痛みを知ったお前は少し強くなれる。
そして、その分だけ人に優しくなれる。
痛みを知った者が、次に傷ついた者を癒す薬になれるんだ。
だから、今は休め。
で、いつか俺が疲れ果ててたら、こんどはお前が助ける番だ。
上司の言葉が心のひだに沁みてきた。
だけど「治るまで、ゆっくり休め」の言葉を文字通り受けてはいなかった。
仕事を「ゆっくり休んでる」間に、勇気を出して、
僕は専門医の門をたたこうと思った。