“ドラえもん”をようやく返すことができた

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学生のとき、仲の良い友人が地方に引っ越した。

あとで彼からドラえもんの3巻を
借りっぱなしだったことに気づいた。

だけど、いつか会った時に返そうと大事にしまっておいた。

子供ながらにこの「ドラえもん」が、
彼との関係をつなぎ止めてくれるものと
感じていたのかもしれない。

最初はお互い、頻繁に連絡を取り合っていたのだが、
いつしかそれも年賀状のやり取りだけになっていた。

そんな彼が引っ越して十数年経った頃、
彼の訃報が届いたのだ。

ガンだった。

仕事で彼の葬式に行けなかった私は後日、
当時仲の良かった友人たちと一緒に彼の実家を訪ねた。

彼の母親にすすめられ、彼の部屋に入ると、
本棚にはビッシリと藤子不二雄関連の本が並んでいた。

私たちがその量に驚いていると、彼の母親が、
「ファンの域を超えて、コレクターになってしまった」と、
少し誇らしげに話してくれた。

続けてお母さんが言った。

「でも、ドラえもんの3巻だけが、
 どこを探しても見つからないのよ」

私は、冷水を浴びたようにドキッとした>>>

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母さんのその言葉を聞き、
私は慌ててカバンから本を取り出した。

今日、彼に返そうと持ってきたのだ。

うっかり忘れそうになったけど、
忘れず持ってきて本当に良かった。

本を受け取ったお母さんは、

「ああ、あの子はあなたが大事に
 持っていてくれると信じていたんだよね」

と言って、涙を流した。

私もとめどなく流れる涙をこらえながら、
彼のコレクションにドラえもんの3巻を収めた。

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