嵐の日の出来事、忘れられない父母の姿

b175
風の季節になると思い出す出来事がある。

それは、私が生まれてこのかた体験したこともない、
大規模な台風だったと記憶している。

その前日、雨戸の閉めきり、植木の避難、車の移動、食糧の確保
などなど全てに余念がなかったはずである。

そんな状況の中で、父が突然「車が瓦に当たっている」

という言葉を残して、外に飛び出してしまった。

あっという間のことに誰も止めることが出来なかった。

それからしばらく経っても、父は戻ることがなかった。

家中に不安が漂い、父に災害がふりかかったであろうことは、
家族の誰もが認めていた。

一番上の姉は、電話を手にし、110番に助けを求めた。

頬には一筋の涙が伝っている。

無情にも、

「この台風ではとても出動できそうにありません」

という返事しかもらえなかった。

二次災害の恐れがあると、頭で分かっていても、
大自然の驚異に触れて無力すぎる私たち。

信仰心の厚い次女は、ただ一人仏間にこもり、神仏に祈り続けていた。

末の妹は、私の胸に顔をうずめて泣きじゃくるばかり。

先に泣かれてしまい、私の涙は行き場を失った。

父との幸せな日々、突如ふりかかった災害、将来への不安、
次から次へと頭の中をよぎった。

車一台のために、かけがえのない命を失ったかと思うと、
どうして、あの時引き止めなかったかと、後悔ばかりが心を占めた。

そんな中で母は、雨合羽をはおり、今にも外に飛び出さんばかりの勢いである。

父ばかりか母までも失ってしまうのではないかと、
四姉妹は必死に母親にしがみついた。

しかし、母の父への愛情は、
私たち四つの力を合わせても止めることは出来なかった。

なんと、小さな母は私たちを振り切って外に飛び出したのだ>>>

スポンサーリンク

↓Facebookの続きは、こちらからどうぞ↓

が飛び出した次の瞬間、私たちは信じられない光景を目にした。

父と母が抱き合う、その姿は映画のワンシーンのようであり、
私たちの目を釘付けにした。

父が嵐の最中に何をしていたかなど問題ではなかった。

ただ父が無事であったことがとてもうれしかった。

その日は夜遅くまで、家族の誰もが、
その時の心境やその場の行動を何度となく口にし、
今ある幸せをかみしめていたものだ。

夫婦喧嘩、親子間、姉妹間のケンカは日常茶飯事であったが、
誰一人として欠くことの考えられない、
かけがえのない、大切な家族であることを心から感じることができた。

私たち家族が一体化した台風の日の出来事であった。

あれから七年、四姉妹は親元を巣立ち、それぞれの道を歩み始めている。

誰もが”忘れることのできない日”として心に深く刻んでいると、
私は信じている。

スポンサーリンク