後で分かったのだが、
意を決しての入院だったようだ。
女房は手術室へ向かう直前、
ベッドの枕の下から、一通の封書を私のポケットにねじ込んだ。
寂しそうに笑っていたのが少し気にはなった。
手術は一時間足らずで終わったが、
その間、待合室で先ほど渡された封書を開けてみた。
「お父さん!
私は潰瘍ではなく、癌だと思っています。
この先あまり長く生きられないと思うので、
今のうちに言っておきます。
四十年近く連れ添ってくれてありがとう。
良妻だったと思っていません。
わがままばかり言って、迷惑のかけっ放しだったと、
自分でも思います。
でも、あなたのおかげで、
私は、結構楽しい人生が送れました。
私が先に逝くことになりますが、『三途の川』は渡らずに、
あなたが来るまで、じっと待っています。
来た時には、他のいい女に目移りすることなく、
真っ先に私を探して下さい。
来世でも、夫婦として一緒に暮らしてあげますから」
「なんじゃこれは!?遺書か?ラブレターか?」
思わず吹き出した。
術後、医師から告げられた>>>
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先生はこう言われた。
「単なる潰瘍です。
三週間くらいで退院できるでしょう」
その言葉を聞いて、一安心すると同時に、
あの、内弁慶な女房の本心の一端を、
はからずも垣間見たことで、思わず苦笑した。
4~5日して病院に行くと、女房が手を出した。
「なんや?」と聞いたら、
あの手紙を返せと言うのでした。
私は、
「そんなもん、知らんで!」と言うと、
背中を思い切りたたかれた。
その力は、元気な時と同じくらいの強さまで、
回復したようだった。