芸能界に入った時は、オレも1年生。
演技もしたことないし、セリフも覚えたことはない。
だからみんな先輩、楽屋では子役のところにも挨拶に行った。
お芝居なら覚えられないセリフも必死で、本番まで覚えたよ。
バラエティならみんなが読まない脚本も読んで、
きっちり自分の役割をこなした。
だから、「ガッツさんちょっとおかしい」とも言われたね。
ケーキは顔に塗られるし、馬鹿な役もやらされる。
「チャンピオンも引退したら悲惨だね」って言われたよ。
でもね、『おしん』というドラマの時に
いきなりセリフの多い役で大抜擢された。
聞くと橋田 壽賀子先生じきじきの指名だよ。
「先生、何でボクを選んだの?」って聞いたの。
そしたら先生からは、意外な言葉が帰ってきた。
ボクシングで言えば、カウンターパンチみたいなもんだ>>>
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橋田先生の言葉はこうだった。
「あんた一生懸命やってるじゃない」
「普通、ボクシングのチャンピオンでこの業界に来ると
みんな天狗で鼻持ちならないのよね」
「あんたはチャンピオンのガッツ石松じゃなくて、
役者の、芸人のガッツとして頑張った。
だからこの役はガッツ石松のために用意したのよ。
あんたが一生この業界で食っていけるように」
オレは人目もはばからず泣いたよ。
見てる人は見てるんだって思ってさ…。