もう20年以上も前、私が高校生の時のことです。
うちは母子家庭で、母が繁華街の裏の病院に1ヵ月ほど入院しました。
個室だったので、静かにしてれば、１０時まで病室に来てもいいと
病院に了解をもらっていました。
というのも、私は学校帰りにそば屋でバイトをやっており、
それが終わってから、母の顔を見に病院に行っていたのでした。
バイトは午後9時で閉店ですが、すごい忙しい繁盛店だったので、
なかなか9時ちょうどに終わることはできませんでした。
ある日のこと。
病室に入る時間が遅くなり、母とのおしゃべりもつい長くなったので、
帰宅する時間が、遅い時間になってしまいました。
駅まで繁華街を通らなければいけないし、
おまけに制服だし、こんな日は母がタクシー代を私に持たせました。
私もバイト代は毎月6万円くらい稼いでいるし、
自分で払えるからいらないと言いますが、
母は無理やり私のポケットに入れ込みます。
当時はバブルの真っ最中であり、
週末など、なかなかタクシーがつかまりません。
その日もそうでした。
空車なのに、露骨な乗車拒否ばかりでした。
不安な気持になってきました。
たまたまこんな時に停まってくれる車の中には、
客の弱みにつけこんで、法外な料金を請求する運転手がいる、
そんなことを聞いていたからです。
やっぱりタクシーはやめて、
電車で帰ろうと繁華街に足を向けていた時でした。
回送ランプをつけたタクシーが停まってくれたのです。
運転手さんは、怖い顔をした体格のいいおじさんでした。
ドキドキしながら、私は車に乗り込みました＞＞＞
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運転手さんは、もう帰る途中だったそうです。
ただ自分の娘と同じ年頃の娘が制服で、
繁華街に立っているのが気になり、
わざわざＵターンして戻ってきたというのです。
こんな場所でこんな時間に、
なぜそこに居たのかを聞かれました。
私が事情を説明したら、
なんと運転手さんはメーターを倒して言いました。
「そのお金はお母さんに返しなさい」
結局、運転手さんはタクシー代を受け取りませんでした。
「おまけに顔もうちの娘と似てるんだよ。
見かけた時はビックリしたよ」
と、写真を見せてくれました。
可愛い子でした。似てると言われて嬉しかったです。
後日談があります。
ある日の晩、またタクシーで帰る日がありました。
その日はすぐにタクシーが停まりました。
この前の運転手さんとは違う人でした。
「うちの会社のタクシーに前に乗ったことあるでしょう？」
実はね、と教えてくれました。
「○○病院前で、夜、制服の女の子がタクシーを待ってたら、
乗せてあげてくれって、同僚に言われてるんだよね。
お母さんが入院してるでしょ？」
その運転手さんも、早めにメーターを倒して、
1,000円分くらいの割引をしてくれました。
世の中、いい人ってたくさんいるんだな
と素直に思ったその頃の私でした。
参考：２ちゃんねるの泣ける話（ぶんか社）