ピッチャーは孤独なもの、だけど僕の場合は…

b243
校野球には、思いがけない展開による感動や涙が満ち溢れています。

野球部だった「昔の少年」のあるお話をご紹介します。

夏の甲子園に向けた地区予選の第一回戦のことです。

Yさんは、1年生。控えのピッチャーでした。

五回裏、4対0で負けています。

まだ相手の攻撃、ワンアウトで満塁の場面でYさんに声がかかりました。

以下、Yさんの手記を引用します。

—————————-

無鉄砲なだけの自信と一握りの不安を胸に、
僕はピッチャーマウンドへ向かった。

内野手の先輩たちが集まってくる。

「俺らが後ろにいるんだ。打たせてっていいぞ!」

「しっかり腕振っていけば何でもいいから!」

鳥肌がたった。

普段はやる気がないなら帰れだとか、
そんな球しか投げれないならピッチャーやめろだとか、
野球に対して厳しい先輩たち。

ところが、今はみんな、一年生の僕なんかに
気を使ってくれている。

吹奏楽部の演奏が、さらに僕を奮い立たせた。

僕はまた、心の奥から震え上がる何かを感じた。

僕がマウンドに上がってからの第一球。

想いを込めて投げた球だったが、ピンポン玉のように弾き返された。

まずい!

しかし、先輩の「打たせてっていいからな!」
の言葉にウソはなく、ライトを守っていたキャプテンは、
飛びついてボールを捕った。

ファインプレーだ。

三塁ランナーは還ってしまったけれど、
これでツーアウト。

あと一つアウトを取れば急場は凌げる。

高校野球は、最後まで何が起こるかわからない。

次のバッターに対しても、力一杯投げた。

相手の打った球は、僕の目の前に転がる。

「よしっ!」

口から自然とそうこぼれた。

ごく平凡なピッチャーゴロ。

誰もがこれで三アウトだと確信する。

僕はそのボールをつかんでファーストに投げた。

ところが、僕の投げた球は、一塁手の頭上高く超えていった。

試合に出てから何球と投げていないのに、
めにしみるほど汗をかいている。

五回裏、7対0。ツーアウト2塁。

頭がボーッとする。

夢の中みたいだっていうのは、こういうことを言うんだろう。

守備についている先輩たちが何か言っているが、
金管や太鼓の音にかき消される。

相手チームは、僕から点数だけでなく自信も奪っていったみたいだ。

続くバッターにフォアボール。

そして三塁打を打たれたところでタイムがかかった。

再び、キャッチャーや内野手がマウンドに集まる。

交代ではないらしい。

このときの僕には、三年生に申し訳ないと思うほど余裕はなかった。

「どうしよう……」

「怒られる……」

自分のことで頭はいっぱいだ。

この失態の言い訳を必死に考えもしたが、
頭の中は空っぽだった。

「すいません!次で抑えます!」

この先を抑えたところで、試合はほぼ決まっている。

ところが、僕に応える先輩の言葉は、
僕の予想を大きくはずすものだった>>>

スポンサーリンク

↓Facebookの続きは、こちらからどうぞ↓

輩はこう言った。

「Y、すまん!さっきのボール捕れたわ」

え?

「おまえは全然悪くねえよ。あいつら打ちすぎ。
俺がピッチャーだったら20点は取られてるぜ!」

耳を疑った。

試合をダメにしたのは、誰がどう見たって僕だ。

「思い切っていけ、この試合はお前の責任じゃないから。
全部オレたちの責任だから」

五回裏9対0。ツーアウト三塁。

僕に代わってから5点も取られていたのか。

この試合で三年生は終わり。

僕のせいで三年生の高校野球は今日が最後。

音が何も聞こえない。

まるで時間が止まったかのように感じた。

「何やってんだよ!」って殴られたかった。

「おまえのせいだ!」って怒鳴られたかった。

あふれる涙で目が霞んで、
バッターやホームベースが全く見えない。

拭いても拭いても止まらない涙。

僕の投げた球はワンバウンドし、
キャッチャーの後ろへと転がっていった。

10対0。

僕の先輩たちの高校野球は、一回戦の5回コールドという
最も短い形でピリオドを打った。

それでも先輩たちは、僕を責めなかった。

なんて優しい人たちなんだろう。

僕は今でも、この短い夏のことを思い出すと涙があふれてくる。

引用:ふりかえれば愛だった!涙の実話(コスモトゥーワン)
「全部オレたちの責任だから」

スポンサーリンク