先日、私は風邪のために体調が思わしくないので会社を早退しました。
その帰り道、遠くで雷が光っていて、
空は真っ黒い雲におおわれ今にも降り出しそうでした。
私が車を止めて信号待ちをしていると、
横を通り過ぎて行く小二ぐらいの男の子が、足にケガをしている様子。
包帯でおおわれた足はひきずっていて、痛そうでした。
そのうち、雨がパラパラ降ってきました。
まわりを見回しても田んぼと畑ばかりです。
ケガをしている足では走っていくこともできない様子でした。
後ろから三人の男の子が走ってきて、ケガをしている子を追い抜いていくと、
また戻ってきました。
一緒に濡れていこうというのです。
三人の子の優しさが痛いほど伝わってきました。
私は可哀想になり、その子たちのそばで車を止め、
車に乗るように勧めました。
が、怖がって乗ろうとしません。
それもそのはず、知らない人の車には絶対に乗るな、
と言い聞かされているのでしょう。
親切のつもりで声をかけたのですが、無理もありません。
今の世の中、危険が多すぎて、それが人の心までも変えてしまっています。
私は、口でどう説明しても無理だと思い、子供たちに私の車のキーを渡しました。
「これを持ってとりあえず車に乗りなさい。
君たちがキーを持っていればこの車は動かない。
おじさんのことも怖くないだろう」
子供たちはキーを受け取ると、後の座席に乗りこみました。
激しい雨が通り過ぎるまで約10分くらいでした。
子供たちの表情はあいかわらず硬かったようです。
やがて雨がやみ、車から降りると、子供たちは明るい表情に戻っていました。
大きな声で「ありがとう」と言って、手を振る子供たち。
実に生き生きしていました。
それから数日後、子供たちが、私と出会ったあの信号の所に差し掛かったとき、
私を驚かせる出来事が起きました>>>
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あの子どもたちが、信号の所で待っていたのです。
いつ来るかわからない私のことを待っていてくれたのです。
車を停車させた私を見ると、
子供たちはにこにこと笑い、手を上げて近寄ってきました。
「おじさん、この間はありがとう」と言って、
一本のジュースを差し出しました。
自分たちのお小遣いを集めて買ったのでしょう。
私を毎日、毎日、待っていてくれたといいます。
一本のジュースを私に渡すため、何本のジュースを買ったことでしょうか。
子供たちの優しい気持ちで、私は嬉しさのあまりに涙が止まりませんでした。
こんな私を・・・。
それ以来、通りすぎる子供たちをみかけては、
クラクションをあいさつがわりに使っています。
あのときのジュースは、今まで飲んだどんなジュースも及ばない甘さを残しています。
「NTTふれあいトーク集」 より