火消しのプロたちは、子どもの夢の灯を消さなかった

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6歳の母親は、病院のベッドに横たわるわが子を
ただじっと見つめていた。

子どもは白血病で、助かる見込みはなく、
死を目前にしていた。

母親の胸は悲しさで張り裂けそうだった。

親ならば、わが子が無事成人して、
小さいときからの夢を果たして欲しいと願うものだが、
もうそんな望みも消えていた。

でも何とかして、息子の夢を一つでも叶えてやりたかった。

母親は息子の手を取って優しく話しかけた。

「ねぇ、大きくなったら何になりたいの?」

「ぼく、消防士になりたいんだ」

「じゃ、どうしたら消防士になれるか、
 ママと一緒に考えようね」
と母親は微笑んだ。

その日彼女は、早速地元、アリゾナ州フェニックスにある
消防署に出かけ、消防士のボブに会った。

母親はボブに6歳のボプシーが、病気で死にかかっていること、
最後の望みが消防士になることを話し、ボプシーを消防車に乗せて、
近所を走ってもらえないかと頼んだ。

消防士ボブは言った。

「もっといい考えがあります。
 水曜日の朝7時までに、
 ボプシー君のしたくを済ませておいてください。
 彼を一日名誉消防士にしましょう。
 消防署に来てもらい、僕たちとご飯を食べて、
 もし火事の通報が入れば、一緒に消防車で
 消火に駆けつけます。
 消防士の一日を、そっくりそのまま、
 ボプシー君に経験してもらうのです。

 ボプシー君の洋服と靴のサイズはいくつですか?
 消防士のユニフォームを作らせますから。
 もちろん、防火用のヘルメットもね。
 おもちゃなんかじゃなくて、
 フェニックス消防署の記章が入った本物ですよ。

 僕たちの着る黄色のレインコートと長靴も用意します。
 すべて地元で作っているので、急いで仕立てさせますよ」

3日後、いよいよボプシーの夢が叶う日が来た。

ボブは病院にやってくると、
ボプシーをユニフォームに着替えさせ、
外に待機する消防車に案内した。

高層ビルにも届く長いはしごを備え、
前後にハンドルがついた、車体の長い消防車だった。

ボプシーは、後ろのハンドルを握らせてもらい、
消防署まで車を走らせた。

天にも昇るような心地だった。

その日、
火事の通報は3回入り、そのたびにボプシーは、
いろいろな消防車や、救急車や、署長の車に乗り込んだ。

まさに消防士としての醍醐味をフルコースで味わった。

地元のテレビ局もニュースの取材に来ると、
ボプシーの立派な消防士ぶりを撮影していった。

ボプシーが医師の予告より、3ヶ月も長く
生きることができたのは、この日の喜びと
みんなからの愛情のおかげだったのだろう。

ある夜、ボプシーの容態が急変した。

この病院の看護師長は、
誰も独りぼっちで死を迎えるものではない、
というホスピス精神にもとづき、
すぐに家族に連絡をとった。

それから、
消防署長にも電話を入れた。

消防士ボプシーの、あの晴れの日の活動を
思い出したからだった。

「ユニフォームをつけた消防士の方に、
 ボプシーの最期をみとっていただけないでしょうか?」

看護師長の話を署長は黙って聞いていたが、
やがて素晴らしい考えを話し出した。

「今から5分でそこに着きます」>>>

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から5分でそこに着きます。
 消防車のサイレンが聞こえたら、すぐに、
 火事ではないことを病院の皆さんにアナウンスしてください。

 消防署始まって以来の、優秀な消防士ボプシーに、
 署を上げてもう一度、会いに行くんです。
 それから、
 ボプシー君の病室の窓を開けておいてください」

間もなく、消防車がサイレンを鳴らして病院に到着した。

長いはしごがスルスルと伸びて、
3階にあるボプシーの病室に届いた。

署長と13人の男性消防士、そして二人の女性消防士が
窓から入ってきた。

彼らは一人ずつボプシーを抱きしめ、

「愛してるよ」
と口々に耳元でささやいた。

署長を見上げたボプシーは、弱い息の下から
やっと聞きとれる声で言った。

「署長さん、ぼく、ほんものの消防士になれたんだね?」

「ああ、本物の消防士だよ、ボプシー」

署長の言葉に、ボプシーはニッコリ笑みを浮かべたが、
その小さなまぶたは、やがて静かに閉じた。

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