外観も接客も明るい雰囲気で、とてもいい感じでした。
その日、車椅子で、深く帽子をかぶった女の子が、
連れの人と一緒に来店しました。
年の頃は、12、3歳くらいだと思われました。
飛び込みだったらしく、しばらく待った後、彼女は店内に案内され、
何人かの美容師たちの手によって、椅子に移されました。
帽子をとると、そこには薬か何かの影響なんだろう、
パサパサの髪に、ところどころ抜けてしまって、
とてもカットやカラーができるような頭じゃなかったのです。
その場の空気も一瞬凍りついた感じになりました。
僕も含め、周りの人たちも奇異な目を彼女に向けました。
彼女自身、何だか辛そうな顔をしていました。
どうやら連れの女の人が、半ば強引に連れてきた様子でした。
連れの女性は、母親という感じではなく、
おそらく看護師さんのように見受けられました。
少女を椅子に座らせた後、
奥の方から40歳くらいの男性が出てきました>>>
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その人は、やたら陽気な人で、ガハガハ笑うような、
ほんとに美容師なのか、と問い質したくなるようなオッサン。
で、オッサンが女の子に、
「絶対きれいにするから、
ばっさり切っちゃってもいいかな?」と聞きました。
僕は内心、髪の毛が抜けてて、傷ついてるみたいだから、
そんなに切ったらよくないんじゃないか、とか思ってました。
僕はもう、自分の頭よりも、そっちの方が気になりました。
しかし、僕の心配をよそに、それはもうびっくりもの。
その出来上がりには驚かされました。
ものすごいショートにして、その毛先もなんだかクルクルして、
…僕が書くと何だかおばさんの髪型か、
と想像されそうですが、そうではありません。
雑誌とかでよく見る、モデルみたいな髪型で…。
パーマもカラー剤も使ってないのに、大変身です。
もう、全然、前と違うんです。
で、何より違ったのは、その少女の表情でした。
仕上がりを見て、ものすごいニコニコして。
ちょっと痩せてたけど、すごい可愛い子だというのが分かりました。
少女、最初はあんなに無口だったのに、
もうオッサンのバカみたいなおしゃべりに、
いちいち反応して大笑いしてました。
もうその美容院の中が、ほんわかムードでした。
美容師の人って、ほんとスゴイなと思ったのです。
一緒についてきた人も、すごい感謝してました。
僕もその日は、なんだかとてもいい気分で、
いい美容院を見つけたと思いながら帰りました。
先週、またその美容院に行ってきました。
その日のサービスも滞りなく終わって、さあ支払いだというときに、
この美容院、次回の予約ができるので、そうしようとしました。
そうすると、顧客ファイルを開いてチェックするわけですが、
僕の後ろが例の少女のファイルだったのです。
少女は、あのあと毎月予約してはキャンセルしていたようです。
予約の期日や時間が記入されては、バッテンがついていました。
僕の行った日の、三日くらい前の日から、
ずーっと黒い太い線が引かれていたのを見た時に、
急に不安な気持ちになりました。
その線は、何となく悲しげに
書き殴ったように見えたからです。
普通、美容院変えるとしても、連絡なんてしないし、
もう行きませんなんて、わざわざ伝えるなんてこともしません。
ああ、これは・・・と、ちょっと覚ってしまいました。
僕の思い違いで、引っ越しだとか、
なんかそういう理由で来れなくなったんだと思いたいけど。
美容院の、あのオッサンが黒いスーツパンツで、
仕事をしてるのを見てしまったのです。
あの時の、少女の表情とか笑い声が、すごいフラッシュバックして、
帰り道に僕は胸が締め付けられる思いに陥ったのです。
口をきいたこともないのに、
少女のために、涙がこぼれる僕でした。