大学生だったIさんは、
自転車で交差点を渡っているときに交通事故に遭いました。
事故の状況は、こうでした。
バイクを運転していた職人さんが交差点の手前で右折しようとした時、
突然三輪車に乗った小さな女の子が飛び出しました。
あわてて急ブレーキをかけ、バランスを崩しながら、
道路の端を走っていたIさんの自転車とぶつかりました。
さらにIさんの後ろを走っていた八十代のお年寄りの自転車と、
主婦の自転車、それに女子高生の自転車を次々にはね飛ばしました。
つまりこの事故のために5人の人が傷を負って倒れたのでした。
一瞬にして現場は騒然となりました。
そして顔中血まみれで、片足を引きずるようにして
立ち上がったバイクの職人さんが、血相を変えてわめき始めました。
「おい、さっきあそこから急に出てきた女の子、どこへ行ったか知らんか?
誰か知りませんか?親はどこの人か、誰か知りませんか?」
痛そうに足を引きずりながら、必死になって周りに聞き回っていました。
女子高生が立ち上がったので、見ると、チェックのスカートの裾が破れて、
血がにじんでいました。
主婦もズボンについた砂を払いながら立ち上がりましたが、
片方の肘を擦りむいて、血を流していました。
「なによ、あなた!人にぶつかっといて。
ひと言、お詫びくらいしたらどうなの?」
彼女は職人さんを睨みました。
その後ろから女子高生もきつい眼で職人さんを睨んでいました。
すると、職人さんはカッとしたように、
ヘルメットを地面へ叩きつけながら怒鳴りました。
「なんだよ?全部おれのせいだっていうのか?
じゃあ、警察呼んで調べてもらえよ!そうだろう?」
彼はIさんに同意を求めるように言いました。
Iさんは、それよりも、倒れてまだ動かない
お年寄りのことが気になっていたので、
職人さんにはまともな返事をせず、お年寄りの肩を揺すりました。
すると、おじいさんはむくっと起き上がって、
ぼんやりした眼でゆっくりと周囲を見ていました。
その頬には赤い傷がついていて、鼻血も出たのか、
顔中血だらけで、Tシャツまで真っ赤に濡れていました。
Iさんも周囲の人もびっくりして、しばらくは言葉も出ず、
おじいさんがまた倒れはしないかと、息を呑んでいました>>>
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おじいさんは、みんなの顔を次々に見て、
ゆっくり口を開き、のんびりした声で言いました。
「みんな痛かったけど、
死なんでよかったのう?」
しばらく、誰もがおじいさんの顔を見つめて何も言いませんでした。
しかし、すぐに全員の顔に笑顔が浮かびました。
どの顔も、まるで暗闇から抜け出した人のように、
ホッとした喜びの表情を見せていました。
女子高生も、主婦も、職人さんも……。
そして誰もがお互いに相手の傷や体調を尋ねあって、
事故の処理はあっという間に円満に終わってしまったのでした。
おじいさんのひと言が
みんなの心をこんなにも変えてしまったのは、なぜだろう?
Iさんはずっと考え、今でも忘れていないといいます。
どんなに困ったときでも、痛いときでも、
他人の痛みや苦しみを忘れずに、
思いやりのある言葉をかけることができれば、
お互いに憎み合ったりすることはないということを。
それから50年もの間に、
Iさんはいろいろな苦しみや痛みを経験しますが、
そのたびにおじいさんの救いの言葉を思い出し、
トラブルや絶望から自分を救うことが出来た、と語っています。
参考:PHP特集「生きる」389話
「みんなが救われたおじいさんの一言」を下敷きにしています。