無視されたり、叩かれたり…。
死にたいとは思わなかったけど、
学校に行くのはとても辛かった。
イジメをするのは、一部のクラスメートだけだったけど、
他の子たちは、自分もいじめられるのが怖くて、
誰も助けてはくれなかった。
ある日、授業で「自分のお父さん」のことについて、
作文を書く授業があった。
先生は、
「何でもいいんだよ。遊びに行ったこととか、
お父さんの仕事のこととかでもいいんだよ」と言っていた。
けど、僕はなかなか書くことができなかった。
クラスの子たちは、みんな楽しそうに書いている中、
僕一人教室の中で、独りぼっちだった。
結果から言うと、作文は書いた。
書いたのだが「自分のお父さん」というテーマとは違うことを書いた。
またこれがきっかけで、イジメられるのかなと、
子供心にとても不安だった。
でもそれしか書けなかった。
作文は授業の終わりと同時に集められ、先生は、
「来週発表会をします」と言った。
先生は、そのまま教室を後にした。
その後は、頭を叩かれて、いじめられている普段の僕がいた。
そして、作文の発表会の日。
ただひたすら、「僕の作文は選ばれませんように」
僕は、祈って下を向いているだけだった。
発表会は、順調に進み、あと10分で授業も終わるところまで来ていた。
僕は少し安心していたのだが、その期待は無駄だった。
先生が言った。
「では、最後に○○君に、読んでもらいます」
頭の中は真っ白だった>>>
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僕は言った。
「あの、先生・・・。僕はお父さんのこと、書いてないです」
クラス中から非難の声が上がった。
誰かが言った。
「バカじゃねえの?廊下に立ってろよ、オマエ」
様々な声が飛び交ったが、非難の意見はみんな一緒だった。
もうどこにも逃げられなかった。
「静かにしなさいっ!」と先生。
突然の大声に、教室は静まり返った。
続けて先生が言った。
「先生はどうしても読んでもらいたいの。だからみんな聞いてください。
さあ、読んでください」
僕はおずおずと読みました。
『ぼくのお父さん』
ぼくのお父さんはいません。
幼稚園の時に、車にはねられて死んだからです。
だからお父さんと遊んだのも、どこかへ行ったこともあまりありません。
それにお父さんのことも、あまりおぼえてないです。
写真があるので見ましたが、おぼえていないです。
だからおばあちゃんと、お母さんのことを書きます。
お母さんは、昼間しごとに行って、お父さんの代わりに働いています。
朝早くから、夜おそくまで、いつも働いています。
いつもつかれたといってますが、甘いおかしやたいやきを買ってきてくれるので、とても大すきです。
おばあちゃんは元気で、通学路のとちゅうまで、いつもいっしょに歩いてきてくれます。
ごはんはみんなおばあちゃんが、作ってくれてとてもおいしいです。
お母さんが働いているので、父兄参観のときには、おばあちゃんが来てくれます。
みんなおまえの母ちゃん、ババアなんだとからかってくるので、はずかしかったけど、でもとてもやさしい、いいおばあちゃんです。
だから、お父さんがいなくても、ぼくはあまりさびしくありません。
お母さんとおばあちゃんがいてくれるからです。
お母さんは、お父さんがいなくて、ゴメンねと言ったりするので、早くぼくがおとなになって、仕事をして、うちのお父さん代わりになって、お母さんとおばあちゃんの生活を楽にしてあげたいと思います。
だから、おばあちゃんには、長生きしてねといつもいっていて、お母さんには、いつも肩をもんであげています。
二人とも泣いたりするので、少しこまるけど、そんなお母さんとおばあちゃんが、ぼくは大好きです。
一気にぼくは読み終えた。
先生には、死んだお父さんのことを書けばいいのにと言われると思ったし、
クラスの子たちからは、お前のお父さん、いないのか?
もしかして、捨て子だったんじゃねえか、
と、またいじめられるのか、と思ったりしていた。
顔を上げることも出来なかった僕は、
救いを求めるように、先生の顔を見てみた。
先生は立ったまま泣いていた。
先生だけではなかった。
他の子たちもみんな泣いていた。
僕が初めて好きになった初恋の子は、机にうつぶせして泣いていた。
いじめていた子たちも、みんな泣いていた。
でも、僕にはなぜみんな泣いているのか、分からずにいた。
どうして?
お父さんがいないから、お母さんとおばあちゃんのことを、
仕方なく書いたのに。
どうしてみんな泣いているのだろう?
先生「○○君…」
僕「はい」
先生「先生は、人の心が分からない、ダメな先生でした。
ごめんなさい。
世の中には、親御さんのいない子もいるのにね。
そういう人たちのことも頭になくて、
お父さんのことを書いて、だなんて。
本当にごめんなさい」
先生は、顔を覆ったまま、泣き崩れていた。
それがその日起こった出来事だった。
次の日からなぜか、いじめられなくなった。
相変わらず、口悪くからかったりはされたけど、
殴られることはなく、
イジメのリーダー格の子に、遊びに連れて行ってもらえるようになった。
先生は、その後の家庭訪問で、
その日の出来事を、おばあちゃんに話して謝っていた。
作文のことは、僕は話もしていなかったので、少し怒られたけど、
話を聞いた母も、おばあちゃんも、嬉し泣きみたいな、
くちゃくちゃの顔で叱ってくれた。
僕も今は、立派な、人に誇れるような仕事はしてないけど、
家族のおかげで一人前の大人の男にはなれたと思う。
大人になった今でも、その時のことはなぜか覚えているし、
ふと思い出したりもする。
これが僕が書ける自分の思い出です。
ここまで読んでくれた方には、「ありがとう」と言いたいです。
参考:2ch「心に残るいい話」より