会ったこともない遠い親戚の葬式。
親父が出席するはずだったんだけど、
どうしても行けなかったので、
僕が代わりに出席することになりました。
新幹線に乗って、ある田舎町へ…。
周りも見たことない人しかいないので、
重い空気に気圧されていました。
葬式が終わり、退出しようとしたとき、
出口で見知らぬおばあさんに突然腕をつかまれました。
けれども、つかんだきり何も話さず目を丸くしているだけです。
かなりのご高齢だったので、認知症状かなと思い、
何でしょうかと質問すると、
「○○さん?○○さん?」としか言いません。
やはり認知症なのだろうと思い、
周りをみても誰も知り合いがいる様子にありません。
この人も僕と同じく遠縁の人のようです。
しばらくおばあさんのそばにいて、話を聞いてあげました。
そうすると、おばあさんに食事に連れて行かれました。
お腹も空いていたので一緒に食事をすることにしました。
食事中にも、おばあさんは昔話ばかりしていました。
食事の後も、僕はあちこちに連れ回されました。
帰りの新幹線の時間もあるので、おばあさんにそのことを言って、
別れようとすると、今度は引止めにかかられました。
もう行ってしまうのか、
今度は直ぐに帰ってくるのかと、
聞き取りにくい方言で何度も僕に聞いてきます。
いよいよ僕も面倒くさくなってきたので、
また直ぐに会えますよ、
と返事をしつつ別れることになりました。
おばあさんは駅まで一緒に行くと言い、
さらに、途中何度も行かないでくれと言われ、
しつこく引き止められたのです。
散々な葬式代理出席でした。
数日後、また親戚の葬式の連絡です。
今度は親父が、この間よりも近い親戚なので
僕にも一緒に来いと言います。
バイト仲間にまた葬式かと冷やかされて葬式に行きました。
式場に着いて驚きました。
亡くなった人は、あのおばあさんだったのです。
驚きつつも、そうか、あのおばあさん亡くなったのか、
ぐらいの思いしか湧き上がってきませんでした。
葬式の喪主は、おばあさんの弟さんが行っていて、
どうやらおばあさんは、ずっと独身の様子でした。
式後改めて喪主の弟さんに会いに行きました。
そこで、喪主である弟さんは、僕の顔を見て驚愕したのです。
どうしたことでしょう。
僕はまた○○さんと間違えられたようです>>>
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亡くなったおばあさんにもそう言われたことを教えると、
いつ会ったのだと聞かれ、前の葬式で会い、
食事やら散歩したことを話しました。
そうしたら弟さんが泣き出して、少し待っていてくれと言います。
しばらくして弟さんが写真を持ってきました。
その写真には僕が写っていました。
写真は白黒でかなりぼろぼろでしたが、
ゲートルを巻いて、国民服を着た僕が立っていたのです。
そして隣には十代後半に見える女性がいました。
良家のお嬢さんに見えます。
弟さんが話してくれました。
その女性はあのおばあさんで、
隣の僕そっくりな人が○○さんだということ、
戦争が終わったら結婚するはずだったこと。
終戦後その人は帰ってこなかったけれど、
おばあさんは、帰ってくると言い続けたこと。
おばあさんは戦後の農地改革で家が没落し、
結婚を薦められても頑なに拒否し続けたそうです。
おばあさんが死ぬ直前に、弟さんに対し、
やっとあの人が帰ってきてくれた、
今度は直ぐ戻って来るんだと嬉しそうに語っていたとのことです。
弟さんは、死の直前に幻覚を見ているのだろうと思ったそうです。
だけど、そうじゃなかった、
あの人の生まれ変わりが最後に会いに来てくれたんだ、
と号泣しながら語り、僕に何度もありがとう、ありがとうと言いました。
僕も涙が止まらなくなりました。
おばあさん、今頃僕のそっくりさんと、天国で寄り添っているのだろうか。
またいつか、お墓に花を添えて会いに行きますからね。