親の本気が迷子の息子を目覚めさせた

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活動が終わり、職員室で学級の仕事をしている時でした。

外はもう真っ暗。
職員室は、数人の職員だけでした。

突然、職員室の電話が鳴りました。

電話の近くにいた私が受話器を取ると、

「中野先生ですか?息子が今、家で暴れて…」
と、声にならぬ声でお母さんが話しだしたのです。

私は状況もわからぬまま、
彼の家に向かいました。

彼はここ数日間、学校をサボりはじめ、
親に対して反抗的な態度をとるようになっていました。

朝の会が終わり、クラスの生徒に、
「ちょっと出かけてくる」と言って、
私は何度か彼の家に行きました。

彼の家に入り、ベッドで寝ている彼の布団をいきなりはがし、

「朝だぞ!」と。

寝ぼけながら返事をする彼を起こし、
しばらく彼の部屋で話をしました。

「学校で待っているから」と伝え、
彼の家を後にしていました。

そんな生活が続いている時に、
彼が家で暴れたのです。

彼はいろいろと問題を起こし、
地域でも何かと目立つ存在になっていたのです。

何度も家庭訪問をし、保護者とも話をしてきました。

ある日、父親がつぶやくように話しました。

「息子は、みんなに迷惑をかけています。
『親がだらしない』とか、
『もっと親が厳しくしないからだ』とか、
 いろいろな声が入ってきます。
 一時はこの地域を歩くことも、辛かったです。
 でも、私は息子の親です。
 周りが何と言おうと、息子の親なのです。
 しっかり歩いていかなければ…」

玄関を入ると家の奥から、彼の大きな声が聞こえてきました。

「おやじ!!」

すぐに家に上がり、声のする方に行くと、
体の大きな彼と取っ組み合っている
父親の姿がそこにありました。

彼の目は涙でいっぱいでした。

私は二人の間に入りました。

そして、興奮している彼の手を取り、
「息子さんと少し話をさせてください」
と両親に伝え、外に出ました。

彼は素直に私の車に乗りました。

その素直さに、彼は誰かに止めてほしかったのだな、
ということが感じとれました。

彼と夜のドライブです。

彼は、助手席でずっと黙って下を向いたままです。

彼の足元に、涙がポツポツと落ちているのが、
運転している私にも分かるほどでした。

しばらく車で走りました。

運転しながら、「おい、どうする?」という私の言葉に、
彼は「うん」と小さな声でうなずきました。

親とのトラブルの原因など、
私にも彼にも、どうでも良かったのです。

彼の涙は、自分が親に手を出したことに対して、
自分を責めている涙だったのです。

「帰ろうか?」

「うん」

「あやまれるか?」

「うん」

こんな会話だけで、彼を家まで送りました。

玄関には、彼を迎えるように両親が立っていました。

彼は小さな声で、

「ごめん」と。

両親は安心した顔でしたが、
「声が小さいぞ~~」と、おどけて私が彼に声をかけると、

彼は、照れ笑いをしながらも、大きな声で、

「おやじ、ごめん!」と。

そのまま恥ずかしそうに、
彼は自分の部屋に飛び込んで行きました。

彼が成人してから、時々その学年の生徒と一緒に
お酒を飲んでいます。

ある日、彼が飲みながら同級生に
こんなことを話したそうです。

その話に、私はちょっとした驚きを禁じえませんでした>>>

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ろいろなことで悩んでいる同級生がいたそうです。

その同級生に対し、彼がアドバイスをしました。

「親父に何でも話をしてみろよ。

 意外に親父って頼りになるぜ。

 俺は今、親父が一番頼れるよ」と。

もう数年前のことでありながら、
私は、しみじみとした喜びがこみあげてきました。

あの夜、暴れ狂う彼に、親として
文字通り体当たりでぶつかったお父さん。

そんなお父さんの本気が、
彼の中に眠っていた
本来の彼を目覚めさせてくれたのです

教育者として暴力に暴力で向かうことを
肯定するわけではありません。

あの時は、ここぞという時に湧き上がってくる
お父さんの「本気」が体当たりの形になったのです。

そう、親の「本気」こそが本来の
子供の姿を取り戻す引き金になる、
そのことを私もよく分かったのです。

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