伸行さんのお母さん、辻井いつ子さんが
わが子の特別な才能を見つけ出すお話しです。
いつ子さんは、わが子の妊娠が分かると、
チャイコフスキーのピアノ・コンチェルトを毎日聴いて過ごします。
また伸行さんは、音のするおもちゃで遊ぶのが好きなので、
ピアノのおもちゃを買い与えました。
何か歌っていないと、伸行さんは機嫌をそこねます。
そこで、知っているかぎりの歌を歌い続けて、育児にあたるいつ子さんでした。
生後8カ月のころ、伸行さんはブーニンの弾く
ショパンの「英雄ポロネーズ」がとてもお気に入りでした。
テーマの部分に来ると、両足をバタバタさせて
全身でリズムを取って喜んでいました。
いつ子さんがしてきたことは、世界の一流の演奏家の
「音」を聴かせることだけではありません。
「伸行は見えなくても、心で感じとっているから」
いつ子さんはそう実感していました。
だから美術館にもどんどん連れていきました。
例えば、ウイーンの美術館ではガラス越しに指を絵に添ってふれさせ、
構図を説明しながらクリムトを見ました。
「美しいものがあるなら、どんなところにでも連れて行きたい」
そう思って、熱海の花火を見に行きましたし、
沖縄に行ったときには、沈む夕日の荘厳なまでの光景を一緒に見て、
心の震えるような体験もしました。
ところで、伸行さんの聞いていた「英雄ポロネーズ」ですが、
毎日毎日、何回も何回もプレーヤーにかけるので、
そのCDの表面には傷がついて、あるところまで来ると
止まってしまいました。
やむをえず、別の曲をかけることにしたのですが、
伸行さんの表情はすぐれません。
そこで、いつ子さんは楽器店に行って、
新しい「英雄ポロネーズ」を買い求めてきました。
ところが、そのCDをかけても彼の機嫌は直りません。
もうこの曲は嫌いになっちゃったんだ。
そう考えて、なだめたりあやしたりするいつ子さんでした。
しかし、それがきっかけで、いつ子さんは伸行さんの
特別の才能に気づくことになるのでした>>>
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もしかすると、演奏者が違うので、それが気に入らないのかもしれない。
そう思って聞き比べてみると、2つの演奏はずいぶん異なって聴こえてきます。
もし、ブーニンの「英雄ポロネーズ」を聴いて機嫌が直ることになれば、
伸行さんの「耳の力」の証明になることでしょう。
そう考えて、ブーニン版を買い求め、プレーヤーにかけてみると、
なんと伸行さんは、以前と同じように、手足をバタバタさせて、
全身で喜びを表わすではありませんか。
伸行さんが好きだったのは「ショパンの英雄ポロネーズ」ではなく、
ブーニンの演奏する「英雄ポロネーズ」だったのです。
参考本:『のぶカンタービレ』辻井いつ子(アスコム)
『今日の風、なに色?』辻井いつ子(アスコム)